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眼手術学 3
眼筋・涙器
内容
序文
主要目次
☆図版53点,表組18点,カラー写真381点,モノクロ写真30点
眼手術学の第3巻として,「眼筋・涙器」をお届けする.
前半は,眼筋を扱う.斜視手術は,眼科手術のなかでは,比較的安全に行うことができる手術である.しかし,最近の白内障手術では結膜や強膜を縫合することが少なくないため,白内障手術ができても斜視手術はできない,ということが起こっている.斜視手術には,結膜切開,Tenon嚢の処理,外眼筋の操作,強膜通糸,そして縫合,などさまざまな眼球表面の手術操作が必要である.眼球表面や眼窩内組織の解剖に不慣れだと,必要以上に出血させたり,眼窩脂肪を脱出させたりなどで,手術時間が長引いたり,予期せぬ術後結果をきたすことがある.そこで斜視手術を行うに当たっては,十分な解剖の理解と適切な組織の処理方法を学んでおく必要がある.
本書では,斜視手術の準備段階である診断と術式選択,実際の手術における患者体位や消毒,外眼筋の露出,通糸,縫合,術後管理や合併症の処理まで解説している.
手術器具は,施設によって異なるであろうが,先輩たちが使ってきたものをそのまま踏襲していることが多い.使いやすい器具を用いることで手術が格段にやりやすくなることがある.他の眼科手術器具にくらべると斜視の手術器具は比較的安価なものが多いため,自分にあったものをぜひ探していただきたいと思う.術式は,それぞれの症例によって異なるため,基本的な術式およびその応用手術を解説している.術後過矯正,低矯正を含む合併症についても詳しく述べている.
斜視手術は,診断および術式選択が適切に行うことができれば半分成功したようなものである.術式の項目だけでなく,診断の項目にはぜひ目をとおしていただき,自信をもって斜視手術にあたっていただきたい.
後半は涙器を扱う.涙道疾患は“失明に直結しない”,“病変部が見えない”,“眼球よりも鼻腔に近い”などの理由で多くの眼科医から敬遠されてきたのではなかろうか.しかしながら涙道疾患にも共通する主訴である流涙や眼脂の市中病院での頻度は霧視と同じ位多い.それらの大部分は涙道疾患ではないが,その鑑別診断には含める必要がある.
かつての鑑別法は病変部が見えない涙管通水検査や,病院レベルの施設しか持てなかった涙道造影などが主であったが,1999年より開発され2012年より保険収載された涙道内視鏡はクリニックレベルの施設でも病変部のみならず治療さえも低侵襲に“見える化”させた強力な機材である.すなわち涙道内視鏡使用前と後では診断法や治療法が大きく異なるようになった.しかしながら涙道内視鏡を主たる診療法の一つと認識したテキストはほとんどなく,涙道術者の指導を身近に受けることが出来る施設も未だ少ない.
そこで本書では,
1) 境界領域である涙道疾患を多角的に“見える化”するために眼科のみならず耳鼻咽喉科,形成外科および小児科の諸先生方にも執筆いただいた.
2) 涙道内視鏡出現後の涙道診療に必要な解剖生理学的知識にはじまり,必要な器材および種々の外科的治療手技までほぼすべての分野の解説やビデオを収載し,練達の涙道術者が身近にいて教えてもらえる状態に近づけるようにした.特に涙道疾患を最初に手がける際には“涙器手術に必要な基礎知識”“涙器手術に必要な評価”の項は重要かつ有益である.
もし不明な点があれば学会等で執筆者に遠慮なく質問して欲しい.きっと喜んで教えてくれるopen mindedな先生方である.本書を通して,眼筋・涙器に親近感を感じてもらい,臨床に役立つことを切に願っている.
平成26年7月
佐藤美保・佐々木次壽
I.眼筋手術に必要な基礎知識
1.解剖
1)結膜・Tenon囊・強膜
2)眼瞼
3)外眼筋
4)プリー
2.眼球運動の生理
1)眼球運動の法則
2)屈折・調節と眼位
3.斜視診療
●眼位写真撮影
4.斜視の原因
5.非観血的治療
1)屈折矯正
2)プリズム治療
3)視能矯正
II.眼筋手術に必要な評価
1.一般検査
1)視力検査・屈折検査・瞳孔反応・眼底検査
2)眼瞼・顔面・眼球・全身疾患
2.眼球運動検査
3.眼位検査
●調節力は眼位にどう影響するか
●近見眼位と遠見眼位が違うときにどうするか
4.感覚機能検査
III.眼筋手術の準備
1.医療安全―間違いをなくすために―
●手術間違いをなくすための工夫
2.インフォームドコンセント―患者への説明
3.麻酔
IV.眼筋手術の器具・材料
1.手術に必要な器具
V.眼筋手術の基本手技
1.斜視手術の原理
1)後転術
2)短縮術
3)前後転術
4)後部縫着術
5)筋移動術
●後部縫着術が効く原理
2.術野の準備
3.牽引試験
4.結膜切開
5.結膜縫合
6.直筋の手術
7.斜筋の手術
●下斜筋手術の定量をどうするか
8.筋移動術
9.アジャスタブル手術
●斜視手術の定量誤差をどう考えるか
VI.眼筋手術各論
1.乳児内斜視
2.調節性内斜視
3.間欠性外斜視
●間欠性外斜視の戻りをどう防ぐか
4.恒常性外斜視
5.上下斜視
6.交代性上斜位
7.A-V型斜視
8.麻痺性斜視
9.甲状腺眼症
10.続発性斜視
11.残余斜視
12.廃用性斜視(感覚性斜視)
13.特殊な斜視
1)固定内斜視
2)Duane症候群・Brown症候群
3)網膜剝離術後斜視
14.眼振の手術
●重症心身障害児の斜視手術
VII.術中合併症
1.強膜穿孔, 筋断裂, 筋紛失
VIII.術後合併症
1.前眼部虚血
2.感染
3.過矯正と低矯正
4.術後複視
5.結膜瘢痕や周囲組織との癒着形成, 眼瞼の変形
6.視力低下
●術後複視を避けるためにどうするか
涙器
I.涙器手術に必要な基礎知識
1.涙液,涙道の解剖生理
2.鼻腔の解剖と生理
●顔面の発生
II.涙器手術に必要な評価
1.診断のためのストラテジー, 問診, 視診, 触診
2.涙管通水検査とプロービング
3.涙道造影,CT, MRI
4.涙道内視鏡検査
5.鼻内視鏡検査
6.涙液検査
●抗癌剤S-1による涙道閉塞・狭窄
●腫瘍による続発涙道閉塞
III.小児の涙道手術
1.治療法の選択
2.プロービング
●小児の発達免疫学的防御機構
3.涙管チューブ挿入術
4.涙囊ヘルニアに対する治療
5.涙囊皮膚瘻摘出
6.涙囊鼻腔吻合術鼻内法(EN-DCR)
●涙道内視鏡と鼻内視鏡によるプロービング
IV.成人の涙道手術
1.涙小管系手術(pre-saccal)
1)涙小管系手術のストラテジー
2)涙小管炎の治療
3)涙点外反
4)涙点閉鎖術
5)涙点形成術(3 snips procedureを含む)
6)涙小管造袋術
7)経皮的涙小管形成手術
8)結膜涙囊鼻腔吻合鼻外法(Jones tube留置)
9)結膜涙囊鼻腔吻合術鼻内法(Jones tube留置)
2.涙囊鼻涙管系手術(post-saccal)
1)涙囊鼻涙管系手術のストラテジー
2)涙囊鼻腔吻合術鼻外法(EX-DCR)
3)涙囊鼻腔吻合術鼻内法(EN-DCR)
4)ドリルシステムを用いた涙囊鼻腔吻合術鼻内法
5)鼻涙管鼻腔吻合術下鼻道法
6)涙囊鼻腔吻合術鼻外法の再手術
7)涙囊鼻腔吻合術後再閉塞に対する再疎通術
8)涙囊摘出
●レーザーを用いた涙囊鼻腔吻合術
V.涙道内視鏡下手術
1.シースを用いた涙小管再建
2.シースを用いた鼻涙管再建
●涙道内視鏡下涙小管形成手術
VI.涙道の外傷
1.涙小管再建(鼻涙管再建)
索引
●=Additional