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すべての手術患者が経験する手術後痛について,科学的な立場とエビデンスに基づき,基礎から臨床まで徹底解説!

痛みのScience & Practice  1

手術後鎮痛のすべて

カバー写真
  • 編集:川真田樹人(信州大学)
  • 監修:表 圭一(禎心会病院)
  • 監修 山本達郎(熊本大学)
  • 監修 井関雅子(順天堂大学)
  • 監修 川真田樹人(信州大学)
  • B5判・276頁・4色刷
  • ISBN 978-4-8306-2833-7
  • 2013年5月23日発行
定価 13,200 円 (本体 12,000円 + 税10%)
あり
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内容

序文

主要目次

すべての手術患者が経験する急性痛としての手術後痛について,科学的な立場とエビデンスに基づき,基礎から臨床まで詳細に概説.手術後痛をより広く深く理解できるよう,病態生理学,手術後痛の評価,手術後鎮痛法の実際,副作用の対策,小児と高齢者の問題,遷延性術後痛など多面的な構成.簡潔でわりやすい記述と全ページカラーのビジュアルな誌面により,初学者からベテラン麻酔科医まで,興味とレベルにあわせて,読みたい項目を選んで読める.
☆図版151点,表組115点,カラー写真13点,モノクロ写真2点
「手術後鎮痛のすべて」序文

 夢苦しわれ夏痩の骨を痛み(正岡子規)
 正岡子規は脊椎カリエスと手術後の痛みに苦しみながら,この句を詠みました.すべての手術患者さんは手術後痛を経験します.患者さんを手術後痛から解放し,手術後の回復を促すのは麻酔科医の最も重要な使命の一つです.手術侵襲は皮膚,筋肉,胸・腹膜,内臓器,骨と広範で多くの組織や臓器に及びます.したがって,手術後痛は創部に限局した単純な痛みではなく,多くの部位・組織・臓器の損傷に起因する複合的な痛みです.残念ながら,これら各組織・臓器からの痛みの発生メカニズムは未だ不明な点が多く,手術後痛の本質は解明されていません.にもかかわらず,私たち麻酔科医は手術後痛の程度をVAS(Visual Analogue Scale)やNRS(Numerical Rating Scale)を用いて数値化し,手術後痛を理解できたと考えているのではないでしょうか.
 現在では手術を受けた患者さんは,短い在院日数で退院します.手負いのライオンが傷からの十分な回復を待って狩りを再開するのとは異なり,私たち現代人は生活を維持するために,手術後痛を抱えたまま素早く社会に復帰しなければなりません.このように手術後痛を持つ患者さんも社会の影響を強く受けるため,手術後痛も時代とともにダイナミックに変化していると思われます.
 一方,近年,痛みの研究が進歩し,幼若者や高齢者では痛みに対する感受性や神経可塑性が異なり,鎮痛薬の効果にも遺伝的な個人差があることが知られるようになりました.すなわち手術後痛に対しても画一的な鎮痛方法ではなく,年齢や個人差に応じた鎮痛薬や鎮痛法の開発が必要です.そして,急性痛としての手術後痛の一部は,遷延性術後痛という慢性病態に移行することも知られるようになりました.したがって,今後は,遷延性術後痛の予防という見地から,手術後鎮痛を捉え直すことも必要です.
 このように,手術後痛は複合的でダイナミックに変化し,慢性痛に移行する要素を内包し,そのメカニズムが未解明な複雑な痛みです.したがって,手術後痛は麻酔科医が科学的な立場を堅持しながら,実践的に取り組むべき重要なテーマといえます.これが「痛みのScience & Practice」シリーズの最初に本書「手術後鎮痛のすべて」を刊行した理由です.本書では,手術後痛に関する基礎医学的な知見と,臨床におけるエビデンスを志向した鎮痛法・薬,そして将来目指すべき治療の方向性など,手術後痛に関するすべての事項を網羅しました.幸い,手術後痛に関して造詣の深い第一線の医師や研究者の方々を執筆者として迎えることができたため,本書は専門医から研修医まで,読者のすべてに理解しやすく,かつ高度な内容となりました.
 本書を通して手術後痛というテーマの重要性を理解していただき,手術後痛に苦しんでいる多くの患者さんを解放する麻酔科医が,一人でも増えることを願っています.

2013年5月
信州大学医学部麻酔科 川真田樹人
総説
 手術痛と手術後痛
解説
Ⅰ.手術後痛の病態生理学
 1 ヒト研究からみた手術後痛のメカニズム
 2 動物モデルからみた手術後痛のメカニズム
 3 分子からみた手術後痛のメカニズム
 4 創治癒と手術後痛
  T 手術後痛とTRPV1
  T 急性痛から慢性痛への移行:帯状疱疹と手術後痛
II.手術後痛による全身作用と手術後痛の評価
 1 手術後痛による循環・呼吸機能への影響
 2 手術後痛による分泌物・代謝機能への影響
 3 手術後痛による免疫能への影響
 4 手術後痛の身体的評価法
 5 手術後痛の心理的評価法
 6 手術後痛とQOL
  T 先行鎮痛の現在
  T 手術後の創部の痒み
  T 遷延性術後痛は脳画像で診断できるか?
III.エビデンスを意識した手術後鎮痛法
 1 オピオイド
 2 消炎鎮痛薬,COX-2抑制薬
 3 その他の鎮痛薬
 4 硬膜外鎮痛法
 5 末梢神経ブロック
 6 PCA による手術後鎮痛
 7 局所鎮痛法
 8 手術後痛・手術後鎮痛法と長期予後
  T 術後回復能力強化プログラムにおける術後鎮痛
  T 抗凝固療法と手術後鎮痛法の選択
  T 手術後痛に対する局所麻酔薬の全身投与
IV.手術・部位別による手術後鎮痛法
 1 開腹術後鎮痛法
 2 開胸術後鎮痛法
 3 内視鏡下手術後鎮痛法
 4 四肢手術後鎮痛法
 5 産科手術後(帝王切開術)鎮痛法
 6 心臓・血管手術後鎮痛法
 7 脊椎・脊髄手術後鎮痛法
 8 関節手術後鎮痛法
 9 脳神経外科,耳鼻科,口腔外科などの手術後鎮痛法
  T 手術後痛に対するacute pain serviceの現状
  T 周術期管理チームにとっての術後痛
  T 手術後痛と分娩痛の違い
  T day surgeryにおける手術後鎮痛法
Ⅴ.手術後鎮痛による副作用の対策
 1 悪心・嘔吐対策
 2 せん妄対策
 3 呼吸・循環抑制対策
 4 腸管運動抑制,術後イレウスなど他の副作用対策
  T 術後早期リハビリテーションを目指した術後鎮痛
  T 手術後痛と摂食・睡眠障害
VI.小児と高齢者の手術後鎮痛法
 1 小児の手術後痛の問題点
 2 小児の手術後鎮痛法
 3 高齢者の手術後痛の問題点
 4 高齢者の手術後鎮痛法
  T 手術後痛と術後認知機能障害
  T 手術後痛の性差,個人差
  T 手術後痛に対する看護の役割
VII.遷延性術後痛
 1 遷延性術後痛の実態
 2 遷延性術後痛の病態と予防法
 3 遷延性術後痛に対する治療
 4 遷延性術後痛に対するこれからの治療戦略
  T 遷延性術後痛に対するmulti disciplinary pain治療の有効性
  T 心身医療からみた遷延性術後痛
  T 術後痛と俳句・短歌
索引

* T = Topics