待望の非腫瘍性肺疾患の病理アトラス.全ての病理医必携の書!
非腫瘍性疾患病理アトラス
肺
内容
序文
主要目次
◉編集者による書籍紹介◉
「非腫瘍性疾患病理アトラス 肺」を上梓しました.
聖路加国際病院の山中晃先生と自治医科大学教授の横山武先生が「肺病理アトラス- 呼吸器疾患の立体的理解のために-」という非腫瘍性肺疾患の病理アトラスを出版されたのは,私が聖路加国際病院に入職して初期研修をしていた昭和60年(1985年)でした.病理の素人であった私にもわかりやすく書かれた「肺病理アトラス」は,肺を“立体的に理解するため”には最高の教科書でした.しかしながらこのアトラスはその後絶版となり,初学者や非腫瘍性肺疾患を専門としない病理医にもわかりやすく書かれた非腫瘍性肺疾患の教科書が長らくありませんでした.
ご存じの通り,非腫瘍性肺疾患の病理学的診断は,肺という三次元的拡がりのある様々な疾患を二次元である切片標本から再構築していく作業であり,まさに「肺病理アトラス」がいうところ の“立体的理解”が必要であるため,ある意味で経験と勘がものをいう熟練の職人技のようなところがあり,なかなか体系化しにくい領域でした.体系化しにくいということは教科書としてまとめにくいということであり,前述のように長らく教科書という教科書がない状態が続いておりました.
このような中,この4月に「非腫瘍性疾患病理アトラス 肺」を上梓することができました.このアトラスは,私と元国立病院機構東京病院の蛇澤晶先生が編著者となり,それぞれの専門の先生方にお願いをして初学者や非専門家である先生方にも理解していただけるようできる限り図や写真を用いて臨床,画像,病理の解説をしました非腫瘍性肺疾患の教科書です.「肺病理アトラス」の出版以降37年間の医学の進歩により,びまん性肺疾患として非腫瘍性肺疾患に分類されていた肺リンパ脈管筋腫症がPEComaの中に分類されたり,新たにIgG4関連疾患,多中心性キャッスルマン病などが加わったり,移植医療の発達から拒絶反応やGVHD疾患群が出現する一方で,間質性肺炎,サルコイドーシス,結核などの感染症(コロナのような新興感染症もありますが)は依然として組織学的診断の重要な項目として残っています.このような新旧の多彩な疾患について最新の知見を入れつつなるべく平易に解説しましたので,ぜひお手に取っていただければ幸いです.
日本赤十字社医療センター病理部 熊坂利夫
[初出]JPPSニュースレター No.144(2022/5/25),編集・発行:JPPS事務局
肺の構造は気道系および呼吸実質,循環系の三系統から成っており,それぞれに多種の構成要素が存在し,互いに接しまた連続している.気道では,気管支が分岐を繰り返し,膜性細気管支,呼吸細気管支に至る.呼吸実質のほとんどは,薄い肺胞壁で細かく境された肺胞腔の集簇によって占められており,肺胞は呼吸細気管支壁の一部を形成する.また,肺胞腔の周囲には小葉間間質や胸膜が存在している.循環系では肺動脈のみならず気管支動脈が肺内に分布しており,動脈からの血液は気道や肺胞壁の毛細血管に流れ,肺静脈もしくは気管支静脈に環流する.
本書が対象とする「非腫瘍性肺疾患」のなかには,先天性疾患から変性疾患,感染症,間質性肺疾患,気管支拡張や細気管支炎などの気道炎症,血管炎,肺高血圧症など,多岐にわたる疾患が含まれるが,どの疾患も肺の構成要素を複合的に侵す.例を挙げれば,先天性肺疾患では気道・血管・肺胞などに複合的な異常が見られる.感染症では主病巣から周囲の肺胞領域のみならず気道・血管に炎症が波及するため複雑な病像が形成され,細気管支炎では稀ならず肺胞領域にも炎症が波及するほか,中枢側に気管支拡張が併存する.そのため,各疾患を理解するためには,肺の解剖学的構成要素を意識しながら病変全体を立体的かつ総合的に把握することが重要となる.
そこで本書では最初に総論として,肺の発生,基本的肉眼像・組織像,病理所見の取り方・見方を項目として挙げたほか,X線所見は肉眼所見に匹敵する重要な所見を与えてくれるため,病理医にとって有用なX線の見方についても解説をお願いした.
次に各論として種々の疾患についての記載をそれぞれ経験の深い先生方に依頼した.掲載する疾患は多岐に及び,なかには稀な疾患も含まれる.本書は非腫瘍性肺疾患に関して経験の少ない病理医や臨床医も対象としており,それらの先生方にとって本書がいろいろな疾患を知るきっかけとなればとの思いからである.著者の先生方には,肺の解剖学的・組織学的所見に照らした病変分布を含めて,平易な言葉で解説していただいた.写真は顕微鏡像のほかに肉眼写真をできるだけ提示し,病態の総合的理解を助ける意味でシェーマも必要に応じて使ってくださっている.
いまはまだ,非腫瘍性肺疾患はマニアックな世界だと誤解されている節がある.本書が契機となって,病理医のみならず,放射線科医,臨床医も含めた多くの医療関係者に非腫瘍性肺疾患に対する深い興味を持っていただければと期待している.
最後に,文光堂編集企画部佐藤真二氏,鈴木貴成氏,森田礼子氏の忍耐強いご努力がなければ本アトラスの完成はなかったものと思われる.ここに深大なる感謝の意を表したい.
2022年3月
蛇澤 晶,熊坂利夫
Ⅰ 呼吸器の発生
1 呼吸器(肺)の発生の概要
2 肺の形態形成と発育
3 肺の上皮細胞の分化
Ⅱ 呼吸器系の構造(解剖・組織)
1 気道
2 肺胞管(肺胞道)
3 肺胞
4 肺の実質と間質
5 小葉と細葉
6 肺の脈管系(血管,リンパ管)
7 胸膜
Ⅲ 標本の取り扱いと切り出し
はじめに
1 固定液
2 採取方法と固定法
3 肺の切り出しと写真撮影
Ⅳ 肺生検の見方
1 肺生検標本をみるうえでの一般的な注意点
2 組織標本の作製および染色
3 非腫瘍性肺疾患を診断するうえでの病変の広がりの認識
4 線維化病変の見方
5 病変の分布および時相について
6 診断におけるmultidisciplinary discussion(MDD)の重要性
7 TBLCの導入
Ⅴ 病理医にとって有用な放射線画像の情報とその見方
はじめに
1 CT読影の基礎
2 CTの近年の進歩
3 肺の構造とびまん性肺疾患の病理学的特徴
4 びまん性肺疾患診断における陰影の性状と読影のポイント
おわりに
第2部 各 論
Ⅰ.間質性肺疾患 a.特発性間質性肺炎
1 特発性肺線維症/通常型間質性肺炎(IPF/UIP)
2 非特異性間質性肺炎(NSIP)
3 特発性器質化肺炎(COP)
4 呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患(RB-ILD)
5 剝離性間質性肺炎(DIP)
6 リンパ球性間質性肺炎(LIP)
7 Pleuroparenchymal fibroelastosis(PPFE)
8 急性間質性肺炎/びまん性肺胞傷害(AIP/DAD pattern)─ AFOP を含む─
Ⅰ.間質性肺疾患 b.その他の間質性肺疾患
1 膠原病関連間質性肺炎
2 過敏性肺炎(HP)
3 喫煙関連間質性肺炎─CPFEを含む─
4 薬剤性肺炎
5 好酸球性肺炎
6 サルコイドーシス
7 IgG4関連肺疾患
8 中心性Castleman症
Ⅱ.囊胞性肺疾患および結節性肺病変
1 ブラ・ブレブ・肺気腫
〔COLUMN〕一次性自然気胸の病理
2 肺Langerhans細胞組織球症
3 Sjögren症候群
4 アミロイドーシス・軽鎖沈着症
5 リンパ脈管筋腫症(LAM)
6 Birt-Hogg-Dubé症候群
7 胸腔子宮内膜症
8 硝子化肉芽腫
9 炎症性偽腫瘍
〔COLUMN〕円形無気肺
Ⅲ.気管・気管支・細気管支病変
1 気管支拡張症
2 気管支喘息
3 閉塞性細気管支炎(BO/BBO)─濾胞性細気管支炎を含む─
4 びまん性汎細気管支炎(DPB)
5 再発性多発軟骨炎
6 気管支結石症
Ⅳ.肺高血圧・血管病変
1 肺動脈性肺高血圧症
2 慢性血栓塞栓性肺高血圧症
3 肺腫瘍血栓性微小血管症(PTTM)
4 肺静脈性肺高血圧症
5 肺静脈閉塞症(PVOD)
6 肺血栓塞栓症および肺梗塞
7 喀血
Ⅴ.血管炎症候群
1 結節性多発動脈炎(PAN)/顕微鏡的多発血管炎(MPA)
2 多発血管炎性肉芽腫症
3 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)
4 高安動脈炎(大動脈炎症候群)
5 Goodpasture症候群
Ⅵ.職業性肺疾患
1 石綿肺(アスベスト肺)
2 珪 肺
3 超硬合金肺
Ⅶ.感染症
1 細菌性肺炎
2 結核症および非結核性抗酸菌症
3 真菌症 a.アスペルギルス症
〔COLUMN〕Charcot-Leyden結晶
b.その他の真菌症
c.輸入感染症
〔COLUMN〕真菌のin situ hybridization法
4 リケッチア感染症,ウイルス感染症
5 寄生虫による肺病変
6 誤嚥性肺炎
Ⅷ.まれな疾患
1 肺胞微石症
〔COLUMN〕インジウム肺
2 肺骨化症
3 Hermansky-Pudlak症候群
4 Erdheim-Chester病
5 結合織病─Ehlers-Danlos症候群,Malfan 症候群を含む─
Ⅸ.移植・GVHD
1 肺移植・拒絶反応
2 移植片対宿主病(GVHD),特発性肺炎症候群
Ⅹ.先天性肺疾患・小児肺疾患
1 先天性肺気道奇形(CPAM)
2 肺分画症/bronchopulmonary foregut malformation/気管支原性囊胞
3 先天性気管支閉鎖症
4 動静脈奇形
索 引