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理学療法士の視点で捉える糖尿病治療の技術と知識

糖尿病治療における理学療法

戦略と実践

  • 著:野村卓生(関西福祉科学大学保健医療学部理学療法学専攻教授)
  • B5判・194頁・2色刷
  • ISBN 978-4-8306-4525-9
  • 2015年5月19日発行
定価 4,400 円 (本体 4,000円 + 税10%)
あり
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内容

序文

主要目次

本書ではますます増加する糖尿病の治療において,理学療法士が求められる技術と知識を解説.理学療法士の視点での糖尿病の捉え方について,I.理学療法士が知っておくべき糖尿病総論,II.糖尿病治療のための運動療法の基本,III.糖尿病理学療法における患者教育の重要性,IV.糖尿病慢性合併症と理学療法,V.事例紹介と5つのパートで解説している.
☆図版64点,モノクロ写真48点


 1990年代後半, 筆者が理学療法士を目指し養成校で勉学に励んでいた頃, 糖尿病および糖尿病管理に関連する腎臓や肝臓などの機能低下・障害,肥満症などの代謝疾患・障害に対する理学療法は,臨床的にも学問体系としても普及・確立していなかった.呼吸器疾患および心疾患に対する理学療法が徐々に卒前教育の中で教授されていく中,最近では,糖尿病を中心とした代謝疾患に対する理学療法も日本理学療法士協会策定の教育ガイドラインに後押しされ,徐々に教授されるようになっている.2013年に日本理学療法士協会は日本理学療法士学会ならびにその下部組織となる12の分科学会を設立し,一分科学会として日本糖尿病理学療法学会が誕生したが,現段階では“糖尿病理学療法”という用語に違和感を抱く理学療法士は多いと思う.
 筆者が糖尿病理学療法を関心分野にしたいと思ったのは,理学療法士免許取得後から1ヵ月が過ぎようとしていた2000年5月,リハビリテーションが必要な摂食障害を合併した1型糖尿病患者を担当したことがきっかけであった1). リハビリテーション開始当初は,BMI11.7kg/m2(身長156cm,体重28.6kg),ベッド周囲の動作にも介助が必要な状態であった. 理学療法士になって間もない筆者は,糖尿病に関してほぼ無知であり,糖尿病の勉強を並行しながら安全で効果的なリハビリテーションを提供しようと, 多職種に意見を求めるのに必死であった.筆者が藁をもすがる思いの中で出会い,今日まで懇切丁寧に手厚くご指導いただいたのが,糖尿病研究の師である当時・高知医科大学医学部第二内科講師の池田幸雄先生である(現・高知記念病院糖尿病内科部長).新人理学療法士に担当される当時の患者の気持ちを考えると,いろいろと不安・不満があったと思うが,筆者の提案やリハビリテーションプログラムを受け入れていただき,熱心にリハビリテーションへ取り組んでくれた成果により独歩が可能となり,入院から5ヵ月後に退院することができた2).血糖変動が著しい中, リスク管理を徹底することで積極的なリハビリテーションを展開することが可能となることを経験できた.これが糖尿病に興味をもち,糖尿病理学療法を専門にすることになった筆者の原点である.その後,池田先生の推薦,当時の上司の多大な理解と協力があり,2001年5月から高知医科大学附属病院で従来から実施していた糖尿病教育入院へ理学療法士としてルチーンに関わるようになった.糖尿病教育入院に限らず肥満教育入院など,対象も小児から成人にわたり,糖尿病や肥満症そのものの治療を目的とする運動療法の指導に積極的に広く関わることができた.
 病院退職後は大学教員となったが,大阪労災病院治療就労両立支援センター主任の浅田史成先生の支援により,大阪労災病院において現在も定期的に糖尿病患者へ関わる機会をいただいている.筆者の経験および一連の活動成果は,現任の関西福祉科学大学および前任の大阪保健医療大学において,それぞれ「代謝疾患・がん理学療法学(3年後期・全15コマ中の13コマ)」,「代謝障害理学療法治療学(3年後期・全8コマ)」として,卒前教育に還元させていただいている.さらに,旧・日本理学療法士協会内部障害理学療法研究部会代謝班主催の糖尿病理学療法研修会(平成25年度まで)や府県士会が主催される研修会で, 講演の機会を与えていただき,卒後教育にも還元させていただいている.これまでの活動経験を基盤とし,より広範囲に糖尿病理学療法の普及と発展に寄与したいと思い,本書の出版を企画するに至った.
 本書は,一見,健康にみえる人の健康管理を理学療法士がどのように考えているかを内外に示すうえでも,これまでにない視点からの理学療法の専門書としての位置づけであると考えている.チーム医療が大前提の下,理学療法士の立場から糖尿病を捉えた世界にも類を見ない書籍と考えているが,マニアックな方向に向かわないように他職種からの批判を積極的に仰ぎたいと考えている.第I章から読み進めていただければ,糖尿病は理学療法士として学び研鑽してきた知識と技術をもって対応しなければならない疾患であるということを理解していただけると確信している.
 本書がこれからの糖尿病理学療法の普及と発展,糖尿病理学療法学の体系化に寄与できれば幸いである.

2015年(平成27年)5月
野村卓生

◉文献
1) 野村卓生:フロントエッセイ 私の原点,Best Physical Therapist.糖尿病ケア11: 1, 2014
2) 野村卓生ほか:糖尿病自律神経障害を有する糖尿病患者へのリハビリテーション. 保健医療学雑誌5: 52-57, 2014
I 理学療法士が知っておくべき糖尿病総論
 1 糖尿病の過去・現在・未来と理学療法
 2 糖尿病は運動器疾患である
  a 糖尿病神経障害の疫学
  b 糖尿病患者の筋力と理学療法
 3 糖尿病の成因(病型),病態と理学療法
  a 1型糖尿病(患者)における身体活動・運動療法
  b 2型糖尿病(患者)における身体活動・運動療法
  c ライフステージごとの関わり
 4 糖尿病合併症(急性合併症と慢性合併症)と理学療法
  a 急性合併症
  b 慢性合併症
  c 糖尿病三大合併症
  d その他の慢性合併症
 5 糖尿病チーム医療における理学療法士の役割
II 糖尿病治療のための運動療法の基本
 1 代謝と運動 運動療法の効果
  a 糖質・脂質代謝と有酸素・無酸素代謝
  b サルコペニア対策としての運動療法
 2 運動療法の原則
  a 有酸素運動の実際
  b レジスタンス運動の実際
 3 理学療法適応に必要な情報収集と評価
  a 情報収集の考え方と実際
  b 理学療法評価
 4 血糖自己測定と理学療法
  a 採血を行える医療職
  b 保険適用,測定器およびセンサーの入手,廃棄の方法
  c SMBG結果の活用
 5 糖尿病治療を目的とする標準的理学療法プログラム
  a 成人2型糖尿病患者に対する理学療法プログラム
  b 小児2型糖尿病患児に対する理学療法プログラム
III 糖尿病理学療法における糖尿病患者教育の重要性
 1 なぜ患者教育が重要か?
 2 患者教育に必要な科学的理論・アプローチ法
  a 患者の行動変容段階を確認する
  b 行動変容段階に応じたアプローチ
 3 個別教育と集団教育
  a 理学療法士は患者教育能力に長けているか?
  b 患者教育の場所,時期と形態
 4 糖尿病教育教材
  a 教育教材の工夫
  b メッセージバナー
 5 理学療法における患者教育の体系化
IV 糖尿病慢性合併症と理学療法
 1 血圧と運動
  a 高血圧の疫学と診断
  b 運動時の血圧の変化
  c 高血圧患者に対する運動プログラム
 2 糖尿病網膜症と理学療法
  a 糖尿病網膜症のケア
  b 運動プログラムの紹介とその効果
  c 運動中の呼吸循環動態
  d 運動による動脈硬化改善・予防と体重管理
 3 糖尿病腎症と理学療法
  a 腎臓と運動
  b 腎機能障害患者に対する運動・生活指導
  c 透析中の運動療法
  d 糖尿病網膜症と糖尿病腎症
 4 糖尿病神経障害と理学療法
  a 感覚運動神経障害と理学療法
  b 糖尿病自律神経障害,有痛性神経障害と理学療法
 5 糖尿病足病変と理学療法
  a 糖尿病患者における歩行障害
  b 糖尿病足病変の評価
  c 糖尿病足病変への理学療法介入
 6 下肢切断をふまえた末梢動脈疾患の理学療法
  a 末梢動脈疾患の評価
  b 末梢動脈疾患への理学療法介入
Ⅴ 事例紹介
 1 肥満児の身体能力特性とサマーキャンプにおける理学療法士の関わり
  a 子どもの体力・運動能力
  b 子どもの肥満と糖尿病
  c サマーキャンプにおける理学療法士の関わり
 2 特殊な関わり方が問題解決に奏功した症例
  a 重症低血糖予防を目的とした1型糖尿病患者への関わり
  b 糖尿病治療の中断を繰り返す2型糖尿病患児への関わり
 3 臨床実習と糖尿病
  a 理学療法士養成の現状と課題
  b 学生指導および症例レポート作成のポイント
 4 糖尿病理学療法におけるクリニカルリーズニング
  a 糖尿病を合併する理学療法対象患者への関わり
補足資料
本書で使用している略記一覧
索引