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臨床医が臨床の中で見いだした疾患.その発見から今日までの歩みを綴る1冊.

平山病

-発見から半世紀の歩み- 診断・治療・病態機序

カバー写真
  • 著:平山惠造
  •    田代邦雄
  • B5判・164頁
  • ISBN 978-4-8306-1540-5
  • 2013年5月発行
定価 8,640 円 (本体 8,000円 + 税)
あり
在庫
正誤表

内容

序文

主要目次

著者が発見した疾患「平山病」.本疾患に関する,著者一連の臨床成績と病態研究の集大成ともいうべき文献的価値の高い1冊.日々遭遇する症例,一例一例への詳細な検討が本症発見の契機であった.あらためて「臨床」の重要性を思い起こさせてくれる1冊でもある.
☆図版20点,表組15点,モノクロ写真40点

序文 Preface

 一つの疾患が見出され,その存在が広く認められるに至る過程は疾患により様々である.本症(平山病)がたどった軌跡はその中の一つである.それはこれから述べる本文の中で追い追い明らかになろう.本症の発見から半世紀を経た今日,国内と並び国外でも本症が認められるようになった.残された課題はあるが,一つの区切りとして本症をここにまとめることにした.この半世紀は前後二つの四半世紀に分けられる.
 前の四半世紀は1959年に始まる.本症が臨床的に議論された期間である.運動ニューロン疾患(筋萎縮性側索硬化症,脊髄性進行性筋萎縮症など)と診断されていた患者の中に,臨床症候の特徴がそれらとは異なり,手・前腕に限局する筋脱力・萎縮を主徴とする特異な一群(本症)があった.文献を渉猟し世界的に記載されていない病態とみて,「若年性一側上肢筋萎縮症」と仮称して発表した.その後,1972年には38例の集積で臨床的特徴が更に明らかになったが,本症の存在が本邦で認められるにはまだ時を要した.
 後の四半世紀は1985年に始まる.本症の神経病理学的知見(下部頸髄前角の虚血による壊死性病変)が明らかになったのを契機に,これと前後して画像検査の知見が加わり,頸部前屈時に脊髄硬膜後壁が下部頸髄を圧迫する病態機序が判明した.これらの知見から治療法が開発され,早期治療の重要性が指摘された.1996〜2000年には日本全国疫学調査が実施され,本症が全国的に存在することも明らかになった.このような経緯を経て本症が本邦で広く知られるようになり,諸外国でも今世紀に入る頃からようやく注目されるようになった.かくして本症の存在が臨床的に指摘されてから半世紀の歳月が経過した.
 残された課題の一つに,筆者(K.H.)が提案して成せなかったことがある.中学,高校の健康検診(体力テスト)で握力低下が認められた生徒の手指の状態を診る機会を神経内科医に与えてもらうことである.早期発見につながる可能性があると考えたからである.学校当局に打診すると文部省(当時)の許可を,と言い,文部省に尋ねると従来の実績を,と言われて,結局は実現しなかった.現実に本症患者の問診で,学校健診で握力低下に気付いた生徒(患者)は稀でない.多くはそのまま放置し(され)て,早期診断の機会を逃し,症状が進行してから受診することが多い.本症患者が将来の職業選択で不利を招かないために早期診断,早期治療は必須である.早期発見は更にその前を行くもので,学校健診は貴重な機会である.
 この半世紀の間を顧みて,本症と離れて以下の三点の重要性を再認識した.
 その一は,学問の歴史の重みである.或る疾患・病態が見出されるまでにはそこに至る歴史的背景があり,その過程を過去の文献から読み取ることができる.そこには脈々とした学問の流れがある.今日(現代)だけの限られた知識で物を論じ,事を評することの危うさを思わせられる.とかく現代人は現代(今日)の知識の方が過去(昔)の知識より優れていると自負し勝ちであるが,それは現代人の驕りに他ならない.歴史を識り,過去を学んでこそ,現代を知ることができる.
 その二は,臨床診断に求められる要件である.診断には周辺領域についての造詣が大きく係わる.「裾野広くして,山高し」である.限られた知識・体験からでは,具体性に欠け,理論に走り,抽象に流れ,実体に迫らない.臨床診断には体験に裏打ちされた具体的知識が求められる.
 その三は,患者に対する十分な説明である.病気の原因や症状の機序について理解したいのは患者の当然の心理である.医師がそれに十分に対応できる場合には,その後の検査・治療は順調に進む.筆者は診察の最後に,患者に質問の有無を尋ねる.患者が納得しているか否かを確かめるためである.治療はそこから始まる.
 病気あっての医学であり,病態あっての診断であり,患者あっての治療である.その帰するところは医の心である.
 今日ここに至るまでに多くの支持,協力を得ることができた.ここに記し,感謝の意を表する(発表年代順,当時所属).本症を当初一つの臨床病型として発表するに当たり校閲いただいた豊倉康夫(東京大学冲中内科),椿忠雄(東京大学脳研究所)の両先輩.英文発表に当たり連名を許可された冲中重雄教授(東京大学第三内科).その後の臨床研究において,多数例での電気生理学的検査によりその特異性を検証してくれた長岡正範君(順天堂大学脳神経科),筋生検所見での神経再支配を示してくれた齋藤光典君(順天堂大学脳神経科),本症患者の剖検に尽力してくれた山口哲生/北野邦孝君(松戸市立病院内科/神経内科),その神経病理学的検索を全面的に支援し,本症の病変究明に儘力してくれた朝長正徳君(東京都老人総合研究所臨床病理),画像検査により病態機序を追究し,それに基づき治療法に取り組んでくれた得丸幸夫君(千葉大学神経内科),頸部前屈時における脊髄液通過遅滞を検証してくれた山崎正子君(千葉大学神経内科),電気生理学的観点から病期判定を検討してくれた桑原聡/中島雅士君(千葉大学神経内科),日本全国疫学調査の実施・集計を指揮・担当された田代邦雄/菊地誠志君(北海道大学神経内科),寒冷麻痺の機序の解明に当たってくれた鬼島正典君(千葉大学神経内科),現在,筆者が行っている本症患者の診療とMRI 検査を補佐してくれている北耕平君(北神経内科平山記念クリニック),等々である.更に,田代邦雄君(北海道大学名誉教授)には共著者として本書の作成に尽力されたことを深謝する.本書における英語訳については同君に依るところが大きい.
 本症が発病する直接的な機序は凡そ解明され,治療法も開発された.この病態をもたらす原因に成長が関与するとみられるが,仮説の域に留まっている.脊柱(管)と脊髄硬膜(管)の発達が,成長期における一時期,微妙にずれることの解明が残された課題である.

平成25(2013)年5月
平 山 惠 造
Keizo Hirayama

I章 発見と独立
II章 臨床症候
III章 病理所見
IV章 臨床検査
Ⅴ章 診断と誤診:鑑別診断
VI章 病態の発現機序
VII章 治療,経過,予後
VIII章 原因仮説
IX章 日本全国疫学調査
Ⅹ章 海外諸国での動向
文 献
索 引