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問題を解きながら,成人食物アレルギーのエキスパートの着目点を学ぼう!

解いて学ぶ!

「おとな」の食物アレルギー

思春期~成人の食物アレルギー43のCase Study

カバー写真
  • 編著:鈴木慎太郎(昭和大学医学部内科学講座呼吸器・アレルギー内科学部門)
  • 編著 正木克宜(慶應義塾大学医学部内科学(呼吸器)/慶應アレルギーセンター)
  • 編集協力:相良博典(昭和大学教授)
  • 編集協力 福永興壱(慶應義塾大学教授)
  • B5判・232頁・2色刷
  • ISBN 978-4-8306-2062-1
  • 2021年10月5日発行
定価 5,500 円 (本体 5,000円 + 税10%)
あり
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内容

序文

主要目次

天丼を食べたら唇が腫れた,バスケの試合中に倒れてしまった中学生…….何が原因でどうして起こったのか?食物アレルギーの診療は詳細な病歴聴取をベースとした推論と検証である.さまざまな場面の43症例を通して,「問診内容で重要なものは?」「診断に最も有用な検査は?」などの問題を解きながら,成人食物アレルギーの知識や診療スキルを深めることができる画期的テキスト.コラムや食物アレルギー・アレルゲンに関する資料も充実.
まえがき

 私は世界史が好きである.教科書を読むたびに心躍らせるチャプターがいくつかあるのだが,その1つが「ハンニバルのアルプス越え」である.ハンニバル・バルカは地中海沿岸を支配したカルタゴの将軍であった.紀元前3世紀頃,当時の世界帝国であったローマを征服するためスペイン南部を出発したハンニバルの大軍団(歩兵・騎兵・傭兵併せて6万人超!)はローマの裏をかくため,イベリア半島を北上し敢えて欧州の屋根アルプス山脈を越えて北側からローマ軍団と対峙した.その後,イタリア半島での戦いにハンニバルは連戦連勝するわけであるが,アルプスを越えた直後の兵力は当初の半分以下に減っていたそうだ.稀代の名司令官が名を馳せたのは,その奇想天外な奇襲戦法によるものだが,なかでも戦闘用の象を37頭も引き連れて進軍したことは戦史に残る珍作戦である.カルタゴ領内には北アフリカが含まれたが戦象の多くはインド象だったそうで,輸入にも調教にも予算と労力がかかったであろうに,「なぜそこまでして?」という疑問が尽きない.従軍した兵士同様,象の多くも死に絶え,最終的には3頭しか残らなかったという.それでもローマ軍の兵士は初めて見る象の巨体に慌てふためき,一定の戦果が得られたというのであるから驚きである.
 成人の食物アレルギー診療はとても泥臭く,地道な作業の連続である.吸入ステロイド,トリプル配合剤,バイオ(生物学的)製剤とこの20年間で大きく進歩し,実に華やかな喘息診療と異なり,食物アレルギー自体に適用がつけられた治療薬は,2021年現在何1つとして存在しない.小児で明るい兆しが見えてきた「食べて治す」免疫療法,保湿による湿疹の進展防止から得られる将来の食物アレルギーの発症予防も成人ではエビデンスが得られていない.では,何をすべきなのか? アナフィラキシーを発症した救急患者を1人でも多く受け入れ,些細な症状の訴えが食物アレルギーと関連しないか上手に聞き出し,原因を特定し,併存疾患の治療・管理をする.ただそれだけである.日々,その繰り返しである.診察には時間がかかるうえに得られる診療報酬は少ない.それでも前進するほかないのだ.大雪と寒さに耐え,ローマを目指し行軍したハンニバルのように.
 20年間,アレルギー内科医として成人の食物アレルギーを診療し続けて残念に思ってきたことは,エキスパートが培ってきた診療スキルを後進に指導するテキストブックがないことであった.医師向けですら存在しないのだから,「もっと間口を広げて食物アレルギー診療に携わるすべてのメディカルスタッフに手にしてもらえる内容を目指そう」と共同編集の正木克宜先生に相談した.正木先生は私と異なり,Smartに診療スキルを武装できるICTツールの開発を進めている.コンピュータによる決断手法がエキスパート医師の診療スタイルに合致した内容を叩き出すことを可能にするのか? 成人食物アレルギーに関する学びの過程を問題集形式の書籍にすることで効率的に読者に知識や経験を浸透させることができるのではないか? こうした議論から本書の企画が生まれた.歩みが鈍く,本来は戦闘に向かない老象に気鋭の正木先生がステルス機能と地対空ミサイルを実装してくれたことに感謝している.
 本書の執筆陣には日本アレルギー学会で活躍する食物アレルギーのエキスパート諸氏が結集し,初学者でも学びやすいように,しかし少しだけ背伸びをしてもらえるように先生方に原稿を依頼した.おそらく,今までにない形式の食物アレルギー教本に仕上がっていると自負している.研修医,アレルギー専門医を目指す若手医師,日々の診療で食物アレルギーに困っている一般医家,PAE(小児アレルギーエデュケーター)やCAI(アレルギー疾患療養指導士)などの資格取得を目指すメディカルスタッフ(看護師,管理栄養士,薬剤師)の皆さん方にぜひとも手にとっていただきたい1冊である.

令和3年夏
昭和大学医学部内科学講座呼吸器・アレルギー内科
鈴木慎太郎
Part1 アレルギーの原因はなんだろう?
 Case1 ピーナッツを食べた後に,口の中が「いがいが,ピリピリ」
 Case2 中華料理を食べた後に救急要請(その1)
 Case3 カニはだめでもエビは大丈夫だったはずなのに
 Case4 カニグラタンを食べた後にサッカー
 Case5 鴨南蛮うどんで日本酒を一杯
 Case6 コンビニで買ったそばを食べた後に…?
 Case7 幼少期から「卵アレルギー」の2人の大学生
 Case8 アレルギーはありません…なのに親子丼を食べたら息苦しくなった
 Case9 カニマヨ軍艦を食べた後に激しい下痢・嘔吐,呼吸困難
 Case10 豚肉の卵炒めを食べた後の全身蕁麻疹,腹痛・下痢
 Case11 柏餅の材料は「米粉」「こし餡」?
 Case12 部活動の前はおなかがすく
 Case13 天丼を食べたらまぶたや唇が腫れてしまった
 Case14 どれがあやしい?
     「ミックスナッツ」「クルミパン」「コーンスープ」「犬を飼っている」
 Case15 どれがあやしい?
     「イチゴのケーキ」「フルーツタルト」「アーモンドチョコ」
 Case16 中華料理を食べた後に救急要請(その2)
 Case17 いつもは症状が出ないのに,ヨーグルトを食べたら口唇周囲に発疹
 Case18 繰り返すアナフィラキシー!原因がわからない!?
 Case19 具材豊富なお好み焼きを食べた後に
 Case20 色とりどりのスイス製マカロン♡
 Case21 どれがあやしい?
     「ダイエット食品」「清涼飲料水」「ガム」
 Case22 ちらし寿司を食べた寿司職人の救急要請
 Case23 中華料理を食べた後に咳が止まらなくなった海女さん

Part2 アレルギーの原因はひとつでない?
 Case24 毎年春に果物を食べると唇が腫れる
 Case25 豆乳ダイエット!のつもりが救急要請
 Case26 セロリを食べた後の口やのどの,いがいがする感じ
 Case27 スイカを食べた後の口腔内の違和感
 Case28 どれがあやしい?
     「パスタ」「パン」「ジャガイモ」「米」
 Case29 カレー専門店でチキンカレーとナンを食べた後のアナフィラキシー
 Case30 大根をすり下ろしたら手が腫れた
 Case31 キャンプ場でのアナフィラキシー
 Case32 ローストポークのディナーには赤ワインをあわせて
 Case33 サッカーの試合のハーフタイムにアップルパイを食べたら
 Case34 バスケの試合中に倒れる
 Case35 ドライフルーツを食べた後の口の違和感

Part3 アレルギー診療は奥が深い
 Case36 焼き魚定食を食べた後に呼吸困難と全身の紅斑が出現
 Case37 近くの浜辺で採った貝をパスタにして食べたら…
 Case38 固形物が飲み込みづらい中年男性
 Case39 1ヵ月以上にわたり出現と消失を繰り返す蕁麻疹
 Case40 久しぶりに牛乳を飲んだら腹痛・下痢
 Case41 夏期に掌を中心に皮疹が出現
 Case42 30年にわたる関節痛・胃痛を自覚する,多種多様の食物アレルギーを訴える患者
 Case43 「コオロギ」を試食後に起きた全身の痒みと発赤

●巻末資料
●索 引