
- B5判・168頁・2色刷
- ISBN 978-4-8306-5179-3
- 2012年10月発行
M-Testとは,身体の動きに伴う症状を指標とした診断・治療法である.この手法は局部のアプローチだけでは判断・改善できないアスリートのスポーツ障害を診る上で非常に有用な方法となる.本書はM-Testを実践に繋げるための理論から競技現場での実践までを網羅し,スポーツM-Testのすべてがわかる1冊.M-Test初学者のための実症例から学ぶドリルのほか,わかりやすい症例解説,セルフケアのためのストレッチ例なども掲載.すべてのスポーツ関係者・医療関係者必読の内容.
☆図版106点,表組19点,モノクロ写真3点
まえがき
本書は2003年に出版された『スポーツ鍼灸ハンドブック─経絡テストの実際とその応用─』の改訂版である.旧版で,身体の動きを経絡・経穴の動きとみなすことで動きの分析とその異常に対する治療を組み立てる新たな方法論─経絡テスト─を提案した.今回のサブタイトルに経絡テストでなくM-Testを用いたのは,この診断治療体系の普及をめざして2006年にケア・ワークモデル研究会を設立するにあたり,この方法がより普遍的な方法論へとステップアップする期待を込めてM-Test と簡潔な呼称に変更したからである.これまでの著書では経絡テストの英文表記をThe Meridian TestやMotion-induced somatic response Testとしていたので,M-Testはこれらの頭文字をとったことになる.The Meridian Testは経絡・経穴の異常を評価し治療することを意味しており,Motion-induced somatic response Testは動きに伴う身体症状を評価・治療するということを表現したもので,M-Testはこの二つの名称の意味するところを統合したものといえる.好都合なことに,MはMukainoの頭文字であるMにも相当した.
この方法論は広く内外に受け入れられ,旧版は2008 年には英語に翻訳されてUSAのEastland社から出版された.翻訳者のStephen Brown先生が,“ The difference between the M-Test and other Japanese techniques is that the M-Test is not static. It’s alive and growing every day. ” とおっしゃるのを聞いて, ここ最近のM-Testの進歩とスポーツ領域における応用の広がりをわかりやすく示すことが必要だと考えたことが本書を上梓するきっかけとなった.
本書の執筆者のほとんどが旧版と同様に自らもスポーツ選手として活躍した経歴を有している人たちであることから,スポーツ選手の身体の動きの特徴を熟知している.加えて, 鍼灸師としてスポーツ現場で長年にわたりM-Testを活用した経験を積んでいる.その経歴が生かされて本書には実践しながら着想した知恵が随所に織り込まれており,旧版と比較してより実践的でわかりやすい内容となっている.また,NATAの公認アスレティックトレーナーも執筆陣に加わることで,M-Testと多関節連鎖との関わりについてより深い理解が得られるように工夫できたと考えている.このような本書の特徴を「M-Testによる経絡運動学的アプローチ」と表現し, サブタイトルとした.「経絡運動学的アプローチ」は奇しくもこの方法について初めて印刷した小冊子のサブタイトルであり,原点に回帰した思いである.
本書はスポーツ動作に対する新たな視点を提供している.このことは多くの優秀な執筆者が参画してくださったことで実現できたが,この視点を活用するとコンディショニングや障害予防ならびに競技力向上に有用で実践的な新たなツールを獲得できると確信している.共著者に心からの賛辞を贈りたい.
特に,一緒に編集にあたった松本美由季女史が示してくれたスポーツにおける競技特性や個人特性に対する鋭い視点が本書の中身をより現場に即した実践的な内容へ近づけてくれたことを申し添えたい.この場を借りて深甚なる感謝を捧げる.
本書がスポーツ選手を始めとしてスポーツに関わるあらゆる人たちにスポーツ動作に対する新たな視点と障害予防や競技力向上に有用で実践的なツールを提供してくれることを期待している.
2012年9月
向野 義人
Ⅰ M-Test 概説
1.M-Test の理論的背景
A 身体の動きと経絡・経穴システム
1 序論
2 経絡と身体の動き
a 経絡概説
b 表裏経と身体の動き
c 同名経と身体の動き
3 経穴と身体の動き
a 経穴概説
b 経穴と身体の動き
B M-Test の動きと経絡・経穴・大筋群
a M-Test を構成する動き
b スポーツM-Test
1)上肢前面(A ブロック)
2)上肢後面(B ブロック)
3)上肢側面(内・外側)(C ブロック)
4)下肢前面(D ブロック)
5)下肢後面(E ブロック)
6)下肢側面(外・内側)(F ブロック)
C 筋バランスと運動連鎖
D スポーツ動作と経絡・経穴システム
a M-Test に基づく治療
E 動きの改善とパフォーマンスの向上
1 野球投手のパフォーマンスに対するM-Test 治療の効果
2 M-Test 所見と背泳100m の泳記録との関連
3 反応時間に対するM-Test 治療の効果
2.M-Test の基本動作
A M-Test 個々の動作
1 M-Test の各動作と留意点
3.M-Testによる診断
A 所見用紙
B M-Test所見をとる
1 所見用紙に患者の基本情報を聴取して記載する
2 M-Test所見をとる前に(説明および注意事項)
3 30項目の動作を行い,所見用紙に記載する
C 診断(所見の読み方)
4. M-Test治療
A 治療手順
B 治療法
1 基礎治療
a 24穴
b 大筋群/ルート状の経穴
2 中・上級の治療
a 組み合わせ穴
b 陰陽交叉治療
c 中心軸へのアプローチ
1)脊柱の軽度弯曲と仙腸関節部の治療
2)華佗夾脊穴の治療
3)背部兪穴・募穴
d オプション
C 有効な経穴/刺激部位の見つけ方と治療器具/手技
1 有効な経穴および刺激部位の見つけ方
2 治療器具/手技
a 治療器具
1)円皮鍼(パイオネックス)
2)マイクロコーン(ソマセプト,ソマレゾン)
b 手技
1)ストレッチング
2)マッサージと軽擦
3)その他
D M-Testのガイドライン「七原則」
II 施術者のためのスポーツM-Test
1.スポーツ種目の動きとM-Test
A スポーツ動作をシンプルな動作に分解
B 競技の動作特性を理解できる
C 競技の動作特性と経絡
1 テニス:テイクバック動作
a. M-Testによる動作観察
b. M-Testの6ブロックからの観察
2 マラソン:着地時
a. M-Testによる動作観察
b. M-Testの6ブロックからの観察
3 野球:投手コッキング期
a. M-Testによる動作観察
b. M-Testの6ブロックからの観察
2. M-Test陽性所見とその読み方
A 陽性所見の意義
1 疲労や異常の部位から選手の現状を推測
2 全身を診ることで意識していなかった過負荷部位を見つけられる
B 陽性所見と選手の動きの特徴
1 個人の動作特性を理解できる
2 競技特性と個人特性を理解できる
3 M-Test陽性所見の生かし方
A チームケアに役立てる
B 治療計画の立案に役立てる
C 結果の評価や治療方針の再検討に役立てる
4. 注意事項
A M-Testで悪化させることがある
B 陽性動作がなくなることは最高なコンディションを意味するか?!
C 陽性動作の変化が観察されたら
D 基本30動作の応用とそのルール
E 問診から多くの情報を得る
III 選手にとってのスポーツM-Test
1. セルフケア
1 セルフケアとは
2 セルフケアに費やす時間は自らをより深く知るチャンス
3 セルフケアへのM-Testの活用
A M-Testの簡略化
B ストレッチング
2. コンディショニング
A コンディショニングとは
B M-Testの応用
1 基本の3ステップ─ウオームアップへの活用
3. M-Testの応用のすすめ
A 疲労部位の早期発見と早期対処でパフォーマンスを維持向上させる
1 疲労を軽減することができ,トレーニング効果が上がる
2 パフォーマンスを維持・向上できる
3 自覚していない部位の異常や疲労を容易に,即座に,正確に判定できる
4 コンデションの良否を認識することができる
5 選手がコンディションを崩したときにそれを回復(リコンディショニング)させる助
けとなる
B M-Testを応用する利点
1 すべてのテスト動作は単純動作が指標である
2 理解が容易である
3 練習中のコンディショニング,セルケア,治療(ケア)までの一連のプロセスすべてに応用
4. 注意事項
A 陽性動作からストレッチ部位を設定する際の注意
B 評価のためのM-Testを行う際の注意
C 常に相談する
IV 症例解説
膝関節(バスケットボール)
腰部(バレーボール)
肩関節(野球:左投手)
アキレス腱(ラグビー)
肩関節(バレーボール)
大腿部(マラソン)
頚肩腕部(ダンス)
頚肩腕部(アーチェリー)
腰部(ラグビー)
頚肩腕部(ゴルフ)
下腿部(水泳)
付録
1 所見用紙
2 施術手順表
3 経穴
4 M-Test 24 穴サークル
5 トラブルシューティング
索引
【Coffee Break】
M-Test で金メダル!?
0.01 秒
症状部位に目を奪われると治療すべき部位が見えないことがある
手術痕へのアプローチ(1)
手術痕へのアプローチ(2)
M-Test 七原則「すべての動きをまずチェックする」
鍼灸は痛くて熱くて恐い?
アスリートと鍼治療
グリップの持ち方で個人特性を理解
選手のこころを支えるM-Test
記憶に残る治療