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新しい薬剤による新しい薬疹をまとめたこれまでになかった1冊!

新しい薬疹

薬剤による皮膚有害事象の新タイプ

  • 編集:戸倉新樹(浜松医科大学皮膚科学講座教授)
  • B5判・188頁・4色刷
  • ISBN 978-4-8306-3471-0
  • 2019年11月12日発行
定価 6,600 円 (本体 6,000円 + 税10%)
あり
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内容

序文

主要目次

近年,生物学的製剤や分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬などの薬剤が登場し,従来にはなかった新しいタイプの薬疹が報告されている.本書では様々な原因薬別にその発生機序,症状,対処法について詳細に解説した.臨床写真がふんだんに掲載されており,アトラスとしても利用できる.皮膚科医はもちろん,原因薬剤を処方した一般内科医にも役立つ内容となっており,これまでになかった1冊となった.
序 説
薬疹から皮膚有害事象へ

 薬疹は薬剤により皮膚に起こる副作用で,元来は発疹症といわれる現れ方を想定してきた.特に,アレルギー性機序で生じる急性発疹症をイメージする臨床家は多かったのではないかと思う.これらの皮疹はウイルス性の急性発疹症と似ることが多く,しばしば鑑別診断が困難であった.こういった従来型の薬疹には,播種状紅斑丘疹型,多形紅斑型,Stevens-Johnson症候群Stevens-Johnson syndrome(SJS)/中毒性表皮融解壊死症 toxic epidermal necrolysis(TEN),薬剤性過敏症症候群 drug-induced hypersensitivity syndrome(DIHS),急性汎発性発疹性膿疱症 acute generalized exanthematous pustulosis(AGEP)などがあり,これらはこうした急性発疹症としての性格を有するものであった.
 現在の多様な薬剤の登場は,こうした従来の薬疹のイメージを一変させている.これまでの薬疹型に則ってそれらを説明していくのでは対応できないほど,皮疹とメカニズムは多様化した.本書では,現在日常的にみられる新しいタイプの,薬剤による皮膚有害事象をまとめた.皮膚科医のみならず,一般的な臨床医にとっても役立つはずである.
 こうした皮膚病変は「薬疹」という言葉が適用できないことも多いため,「皮膚有害事象」あるいは場合によっては漠然と「皮膚障害」といういい方を用いて,より広い薬剤による皮膚症状発現の領域に対応することとした.

薬剤の本作用の延長線上にある皮膚有害事象の増加
 今までの薬疹の多くは,感作T細胞を介しての反応であった.しかし現在では薬剤が直接的に細胞内のシグナル伝達経路を抑制することによって起こる皮膚障害が増加し,また薬剤が自己反応性T細胞を誘導し活性化することによる皮膚障害が増加している.これらは副作用あるいは副反応というより,むしろ薬剤が持つ本来の作用である.こうした反応が起こったほうが,むしろ本来的な薬剤の治療効果が高まることも多い.したがって薬剤の本作用の延長線上にある皮膚有害事象といえる.
 現在,治験では従来の副作用を有害事象 adverse effect(AE)と呼ぶようになっている.重大な有害事象はsevere adverse effect(SAE)と呼称する.この用い方を踏襲すれば,本作用と別の作用(副作用,副反応)による障害のみならず,本作用自身による障害もAEに入れることが可能である.

皮膚有害事象(AE)の新タイプ
 分子標的薬による痤瘡,手足症候群はすでによく知られた高頻度のAEとなっている.タキサン系薬剤によるAEもある.一時代前にはかなり特殊な薬疹とされていたものが,現在ではよくみかけるAEになっている.
 メラノーマ治療薬には,抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体があるが,これらは腫瘍細胞に対するCD8陽性細胞傷害性T細胞を活性化し,治療効果を発揮する.同時に自己反応性T細胞の活性化も起こり,これがAEに繋がっていく.また,皮膚T細胞性リンパ腫や成人T細胞性白血病/リンパ腫に用いられる抗CCR4抗体も,おそらく制御性T細胞を抑えることにより自己反応性T細胞の活性化をもたらし,皮膚AEを起こす.これらは,graft-versus-host reactionと捉えることもでき,従来の薬疹型では扁平苔癬型や多形紅斑型,さらにはSJS/TENにもメカニズムが似る.メラノーマ関連では,BRAF阻害薬、MEK阻害薬によるAEも知るべきものである.
 乾癬に対する生物学的製剤も,皮膚に関わるさまざまなAEを引き起こす. infusion reaction,逆説的副反応,皮膚感染症に加え,脱毛症も含まれる.生物学的製剤は乾癬治療の重要な選択肢になりその数を増しているが,アトピー性皮膚炎にも使用されるようになり,結膜炎など新しいタイプのAEがみられている.
 薬剤による特殊なAEも報告され,光線過敏症,光発癌,皮膚硬化,リンパ増殖異常症など種々の発現型が注目されている.
 既知の皮膚病変であるが,特殊な薬剤によって引き起こされるAEもある.DPP-4阻害薬,漢方薬,セツキシマブ,ヒドロキシクロロキン,ワルファリン,G-CSFなどである.
 これらのAEは従来の薬疹型には必ずしも当てはまらないものであり,本書の意図はこれらに注目することにある.

新しいタイプのメカニズム
 薬剤によるAEのメカニズムについても,新しい知見が得られている.イミキモドの免疫変調作用は当然トール様受容体や形質細胞様樹状細胞との関わりで論じられてきたが,自己免疫疾患の誘導について新知見が生まれている.EBウイルス感染症と薬疹の関わりも以前から論じられてきたが,研究成果がさらに広がっている.その他,SJS/TENの免疫異常,DIHSにおけるウイルス再活性化と自己免疫疾患,固定薬疹とskin resident memory T細胞も興味深い.
 新しいタイプのAEのみならず,こうした疾患でもメカニズム研究の深まりは,皮膚におけるAEの多様さをさらにみせつけている.

今後の展開を見据えて
 わが国における新薬の上市状況は,年々数が増している.今後,JAK阻害薬や新たな生物学的製剤の導入も図られており,皮膚でのAEもさらに増加するかもしれない.そうした場合でも,現時点での新しいタイプのAEを総括することは,今後に起こりうるAEを位置付けするために役立つであろう.

2019年11月
戸倉新樹
浜松医科大学皮膚科学講座
序説 薬疹から皮膚有害事象へ

第Ⅰ章 薬剤による皮膚有害事象
A 分子標的薬による皮膚有害事象
 1 分子標的薬による痤瘡とその治療
 2 分子標的薬による手足症候群とその治療
 3 分子標的薬による爪囲炎とその治療
 4 タキサン系薬剤による皮膚障害
 COLUMN 抗がん剤漏出の対処法
B メラノーマ・リンフォーマ治療薬による皮膚有害事象
 1 抗PD-1抗体,抗CTLA-4抗体による皮膚障害
 2 BRAF阻害薬,MEK阻害薬による皮膚障害
 3 抗CCR4抗体による皮膚障害
 COLUMN 抗CCR4抗体による光線過敏症
C 乾癬治療薬による皮膚有害事象
 1 生物学的製剤による投与時反応
 2 TNF-α阻害薬による逆説的反応
 3 生物学的製剤による皮膚感染症
 4 生物学的製剤による脱毛症
 COLUMN 急性汎発性発疹性膿疱症と膿疱性乾癬
 COLUMN 抗IL-4/IL-13受容体抗体による結膜炎
D 特殊な薬剤による皮膚障害
 1 DPP-4阻害薬による水疱性類天疱瘡
 2 漢方薬による皮膚障害
 3 セツキシマブによるアレルギー
 4 ヒドロキシクロロキンによる薬疹
 5 ワルファリンによる皮膚障害
 COLUMN G-CSF製剤によるSweet症候群

第Ⅱ章 薬剤による特殊な皮膚障害
 1 近年の薬剤性光線過敏症
 2 ボリコナゾールによる光線関連皮膚癌
 3 ハイドロキシウレアによる皮膚潰瘍
 4 薬剤による皮膚硬化
 5 メトトレキサートとリンパ増殖異常症
 6 免疫グロブリン大量静注療法による汗疱状皮疹
 7 インスリン注射部位の硬結(インスリンボール)
 COLUMN 苔癬型薬疹:最近の原因薬

第Ⅲ章 有害事象の発生機序
 1 イミキモドの免疫変調作用
 2 EBウイルス感染症と薬疹
 3 Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症の免疫異常
 4 DIHSにおけるウイルス再活性化と自己免疫疾患
 5 固定薬疹の発症機序-resident memory T細胞を含めて-

索引