前立腺癌診断の要となる形態学的特徴と鑑別診断を押さえた必携の書!
腫瘍病理鑑別診断アトラス
前立腺癌第2版
内容
序文
主要目次
前立腺癌は日本人男性が最も罹患する癌腫で,その多くは腺癌である.一見病理学的には単純な癌腫に見えるが,その臨床経過は多彩である.この複雑な病態を正確に層別化することは極めて重要であり,その重要な役割を病理診断が担っている.病理診断の基本となる前立腺癌取扱い規約第5版(以下,規約第5版)およびWHO Classification of Tumours, Urinary and Male Genital Tumours 第5版(以下,WHO第5版)が2022年に相次いで発刊された.内容的にはGleason scoreの取り扱いが中心であるが,WHO第5版では導管内癌intraductal carcinoma of the prostate(IDC-P)の新しい考え方,BRCA2に代表されるDNA遺伝子修復異常やアンドロゲン遮断療法後に生じる治療関連型神経内分泌前立腺癌treatment-related neuroendocrine prostate carcinoma(t-NEPC)等の新概念の提唱が行われた.その記載は簡潔であるが,一般病理医には非常に理解が難しい状況であるのが現実であると思われる.世界の最新基準を理解すべく,本書を企画した次第である.
本書の第1部では前立腺癌異型度分類の歴史的変遷,肉眼所見の解釈ならびに検体の取り扱い方を解説した.特に肉眼所見の解釈や切り出し方法に関しては知識や経験の不足が指摘されており,その改善の一助となることを期待している.第2部では規約第5版ならびにWHO第5版における分類を規範として,各組織型の典型像,組織学的バリエーションを豊富な写真で示すとともに,診断,鑑別のポイント解説を行った.日本ではまだ認知度の低いIDC-P,cribriform patternの診断方法についても詳細に解説を行った.従来の神経内分泌腫瘍の概念に加え,新規疾患単位であるt-NEPCの基本概念の解説を加えている.第3部は標本検鏡時に問題となる状況ごとに鑑別のポイントやピットフォールなどを中心に取りあげている.第4部は治療にあたる主治医と病理医の連携を深めることを目的に,MRIを中心とした最新の画像診断方法,手術・薬物・放射線などの様々な治療方法,治療方針を決定するうえで病理診断に求められる情報,治療効果の判定,病理診断報告書の記載法について解説を行った.併せて,近年急速に進展しているがんゲノム医療の実施・運営方法について解説を行った.規約第5版で外れた“ラテント癌,偶発癌とオカルト癌”では,日本の病理学・泌尿器科学・法医学から世界に発信された論文を振り返り,その臨床における重要性といまだに解決されないindolentなどのメカニズムの解明を今後に望むべく記載した.
執筆はいずれも最前線で診断・治療に携わっている先生にお願いした.本書が病理医の診断の役に立つのみでなく,前立腺に生じる腫瘍を多面的にとらえ,診療に携わる者をつなぐ役割を果たすことを期待している.
令和5年11月
渡邉 昌俊
都築 豊徳
この「腫瘍病理鑑別診断アトラスシリーズ」は日本病理学会の編集協力のもと,刊行委員会を設置し,本シリーズが日本の病理学の標準的なガイドラインとなるよう,各巻ごとの編集者選定をはじめ取りまとめを行っています.
腫瘍病理鑑別診断アトラス刊行委員会
小田義直,坂元亨宇,都築豊徳,深山正久,松野吉宏,森谷卓也
Ⅰ.病理標本の取り扱い:生検,手術
Ⅱ.前立腺の解剖学・組織学
Ⅲ.病理組織分類の変遷と現状
Ⅳ.WHO2022(第5版)における注目点(取扱い規約第5版との相違点)
第2部 組織型と診断の実際
Ⅰ.腺房腺癌(通常型):癌の診断とGleason分類の評価法
Ⅱ.腺房腺癌(亜型)
Ⅲ.高グレード前立腺上皮内腫瘍
Ⅳ.導管内癌
Ⅴ.導管腺癌
Ⅵ.その他の癌(尿路上皮癌,扁平上皮性腫瘍,基底細胞癌)
Ⅶ.神経内分泌腫瘍
Ⅷ.治療関連型神経内分泌前立腺癌(t-NEPC)
Ⅸ.間葉系腫瘍
Ⅹ.前立腺の良性病変
第3部 鑑別ポイント
Ⅰ.異型腺管の診断
Ⅱ.補助診断としての免疫染色の使用方法
Ⅲ.IDC-P,cribriform patternとその関連病態
Ⅳ.Gleason分類の運用上の注意点
Ⅴ.pT3の評価
Ⅵ.尿路上皮癌との鑑別
第4部 臨床との連携
Ⅰ.前立腺癌の標準治療
1 監視療法
2 根治療法
3 薬物療法
Ⅱ.前立腺癌診療における画像診断の役割:病理との関係を含めて
Ⅲ.病理診断報告書の記載
Ⅳ.病理所見に基づく治療選択
Ⅴ.組織学的治療効果判定
Ⅵ.がんゲノムと病理
1 総論
2 組織およびNGS
3 リキッドバイオプシー
Ⅶ.ラテント癌,偶発癌とオカルト癌
索引