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臨床神経診断学を志す方に大好評のロングセラー!

神経局在診断改訂第6版

その解剖,生理,臨床

  • 原著:Mathias Bähr,Michael Frotscher
  • 訳:花北順哉(藤枝平成記念病院脊髄脊椎疾患治療センターセンター長)
  • B5変型判・520頁・4色刷
  • ISBN 978-4-8306-1544-3
  • 2016年1月4日発行
定価 12,100 円 (本体 11,000円 + 税10%)
あり
在庫

内容

序文

主要目次

画像診断機器の進歩には目をみはるものがあるが,臨床神経診断学の醍醐味は,今日も,自らの解剖学的・生理学的・神経学的所見を総動員し,その病変の解釈を理詰めで推し進め,診断に至るという点である.本書は「Neurologisch-topische Diagnostik Anatomie-Function-Klinik」の著者Peter Duus教授亡き後, Mathias Bähr教授,Michael Frotscher教授により改訂された原著10版の日本語版.美しい図と最新の画像,そして明快な邦訳によって,ベッドサイドでの神経学的局在診断の力が身につく初版以来のロングセラー.
☆図表点数363点
訳者序文

 この神経局在診断「Neurologisch-topische Diagnostik Anatomie-Funktion-Klinik」は原著者Peter Duus教授が亡くなられたのちに,Mathias Bähr教授,Michael Frotscher教授により大幅な改訂が行われていた.原著が第10版として新たに改訂されたことに伴い,日本語訳もこの10版を基に改訂版を出すこととなった.これを機会に旧版で見られていた幾つかの誤りを訂正させて頂いた.
 振り返ってみれば,本書を最初に翻訳したのは私が33歳頃のことであり,ほぼ30年近い昔のこととなる.その折に監訳の労をとって頂いた半田 肇・京都大学名誉教授も既に亡くなられた.大学院での研究生活が終わり,病棟での臨床医としての生活を再開した時期にこの原著を捜し出し,時間を見つけては行った翻訳作業であった.800枚ほどの手書きの原稿の束を蔦の絡まる外科研究棟の中にあった教授室に持参してみたところ,教授がとても驚かれたような顔をしておられたことが今では懐かしく思い出される.
 その後の神経診断学,ことに中枢神経系における画像診断学領域での進歩は,CT scanやMRIの導入に代表される如く誠に目覚ましいものがあり,CT scan導入以前に脳神経外科を志した私たちのような世代の者にとっては真に隔世の感がある.油性造影剤でもって脊髄疾患を診断していたことや脳室空気撮影での患者の苦痛や担当医の苦労話などは,現代の医学生や若い医師達には全く理解できないこととなってしまった.
 CT scanが本邦に導入される少し前に,イギリスから来た研究者によってこの診断機器の説明会が東京で開催されたことがあった.会場は本当に立錐の余地もないほどの超満員の医師たちであふれかえっており,驚異の目で食い入るようにスクリーンを眺めている医師たちの顔が今でも昨日のように思い出される.あれほど熱気にあふれた会はその後お目にかかったことはない.誠に診断機器の進歩には目をみはるものがある.
 だがしかし,これに比して私たち臨床家のいわゆるベッドサイドでの神経学的局在診断の力の程はどうであろうか? 残念ながら確実に低下していると思う.あまりにも画像診断が進歩したために,本来的な臨床神経診断学の能力を身に付けること,その醍醐味を味わう楽しみがなくなってきているように思えてならない.私の近辺でも,極端な場合には,CT scanやMRI所見を先に知ってしまい,その画像所見に合わせた症状のみを取り出してプレゼンテーションを行うスタッフが時に見られる.10年ほど前に,患者のあらゆる画像診断の資料を私の手元に集め,全く画像所見の情報を与えずに若い医師たちに患者を担当してもらう試みを行ったことがあった.それはそれは診断はとんでもなくバラツキ,ある意味ではとても興味のある事態が見られたが,日常業務がはかどらないことが判明したために,この試みは短期間で断念したことがあった.現在では電子カルテとなり,若いスタッフ達は,自分のデスクであらゆる画像所見を閲覧することが可能となっているために,この試みも不可能となっている.
 私の施設のスタッフには,わざと画像所見を見ずに,とにかく病歴の聴取と神経学的診察のみから病変の局在診断を行い,自ら臨床診断を行った後に参考書の解答を見るような感じで,各種画像検査所見を読影するように努めることを勧めているが,果たしてどれほどのことを彼らが実践しているのかは分からない.しかしながら本書の中には神経局在診断に至る本当の意味での楽しさが充満している.若き後輩達には,本書を繰り返し熟読して,神経診断学の楽しさと神髄を学んでほしいと願っている.
 臨床神経診断学は自らの解剖学的知識・生理学的知識・神経学的所見を総動員して,その病変の解釈を理詰めで推し進め,診断に至るという点が醍醐味であり,最も面白い点であり,臨床診断学の中で最も魅力のある分野であると思っていたが,現代においてはこのような面白さは既に時代遅れの老兵の楽しみにすぎなくなっているのかもしれない.
 本書との付き合いも思いのほか長期にわたるものとなった.本書が世界中の多くの言語に翻訳されていること,本邦でも多数の人々に現在でも読み継がれていることは非常に嬉しいことである.これはひとえにDuus教授の記述の素晴らしさと,描かれた多数の美しいイラストレーションが人々の心を捉えたからであると思っている.このような名著の紹介に関わりが持てたことをとても誇りに思っている.
 Duus教授により世に出され,Mathias Bähr教授,Michael Frotscher教授により引き継がれているこの名著が,さらに多くの人々に読まれ,神経局在診断の楽しさを味わってくれる人々が一人でも多く輩出することを心から望んでいる.

平成28年1月
花北順哉
第1章 神経系の構成要素
 1.1 概 説
1.2 神経系における情報の受け渡し
 1.3 ニューロンとシナプス
  1.3.1 ニューロン(神経細胞)
  1.3.2 シナプス
 1.4 神経伝達物質と受容器
 1.5 ニューロンの機能別分類
 1.6 グリア細胞
第2章 知覚系
 2.1 概 説
 2.2 体性知覚系の末梢での構成要素と末梢での規制回路
  2.2.1 受容器
  2.2.2 末梢神経,後根神経節,後根
  2.2.3 末梢性規制回路
 2.3 体性知覚系の中枢での構成要素
  2.3.1 神経根入口部と後角
  2.3.2 後および前脊髄小脳路
  2.3.3 後索
  2.3.4 前脊髄視床路
  2.3.5 外側脊髄視床路
  2.3.6 脊髄内のその他の求心路
 2.4 体性知覚性情報の中枢での処理
 2.5体性知覚性経路の特定の領域での病変時にみられる障害
第3章 運動系
 3.1 概 説
 3.2運動系の中枢での構造とこれらが障害された場合の臨床症状
  3.2.1 運動皮質野
  3.2.2 皮質脊髄路(錐体路)
  3.2.3 皮質核路(皮質延髄路)
  3.2.4 運動系におけるその他の構成要素
  3.2.5 運動系の障害
 3.3 運動系の末梢側での構造とそれらが障害された場合の臨床症状
  3.3.1 運動単位が障害されたときの臨床症状
 3.4 神経系における特定の構造物が障害された場合に出現する複雑な臨床症状
  3.4.1 脊髄病変での症候群
  3.4.2 脊髄血管障害による症候群
  3.4.3 脊髄腫瘍
  3.4.4 神経根症候群
  3.4.5 神経叢症候群
  3.4.6 末梢神経障害時の症候群
  3.4.7 神経筋接合部および筋での障害時の症候群
第4章 脳 幹
 4.1 概 説
 4.2 外部構造
  4.2.1 延髄
  4.2.2 橋
  4.2.3 中脳
 4.3 脳神経
  4.3.1 起源(起始領域)―構成要素―機能
  4.3.2 嗅覚系(第I脳神経)
  4.3.3 視覚系(第II脳神経)
  4.3.4 眼球運動(第III,IV,VI脳神経)
  4.3.5 三叉神経(第V脳神経)
  4.3.6 顔面神経(第VII脳神経)と中間神経
  4.3.7 前庭蝸牛神経(第VIII脳神経)―蝸牛神経と聴覚器
  4.3.8 前庭蝸牛神経(第VIII脳神経)―前庭神経と平衡系
  4.3.9 迷走神経系(第IX神経,第X脳神経および第XI脳神経頭蓋枝)
  4.3.10 舌下神経(第XII脳神経)
 4.4 脳幹の局所解剖
  4.4.1 脳幹の内部構造
 4.5脳幹病変
  4.5.1 虚血性脳幹症候群
第5章 小 脳
 5.1概 説
 5.2外部構造
 5.3内部構造
  5.3.1 小脳皮質
  5.3.2 小脳核
  5.3.3 小脳皮質と小脳核の求心路と遠心路
 5.4小脳と他の神経系との連絡
  5.4.1 下小脳脚
  5.4.2 中小脳脚
  5.4.3 上小脳脚
  5.4.4 小脳性求心路の局所配列
 5.5小脳の機能と小脳症状
  5.5.1 前庭小脳
  5.5.2 脊髄小脳
  5.5.3 大脳小脳
 5.6小脳病変
  5.6.1 小脳梗塞と出血
  5.6.2 小脳腫瘍
  5.6.3 遺伝性あるいは代謝性小脳疾患
第6章 間脳と自律神経系
 6.1 概 説
 6.2間脳の解剖と構成要素
 6.3視 床
  6.3.1 核
  6.3.2 求心路および遠心路における視床核の位置付け
  6.3.3 視床の機能
  6.3.4 視床病変での症候群
  6.3.5 視床の血管障害
 6.4 視床上部
 6.5 腹側視床
 6.6 視床下部
  6.6.1 解剖と構成要素
  6.6.2 視床下部の核
  6.6.3 視床下部への求心路とここからの遠心路
  6.6.4 視床下部の機能
 6.7 自律神経系
  6.7.1 基本的概念
  6.7.2 交感神経系
  6.7.3 副交感神経系
  6.7.4 個々の器官の自律神経支配とこれの障害
  6.7.5 内臓痛と連関痛
第7章 大脳辺縁系
 7.1 概 説
 7.2 大脳辺縁系の解剖概観
  7.2.1 内部および外部との連絡路
 7.3 大脳辺縁系の主な構造物
  7.3.1 海馬
  7.3.2 扁桃体
 7.4 大脳辺縁系の機能
  7.4.1 記憶のタイプと機能
  7.4.2 記憶障害─健忘症候群とその原因
第8章 大脳基底核
 8.1 概 説
 8.2 名称に関するあらかじめの注意
 8.3 運動系における大脳基底核の役割:系統発生的な観点から
 8.4 大脳基底核の構成物とその神経連絡
  8.4.1 核
  8.4.2 大脳基底核における神経連絡
 8.5 大脳基底核の機能と機能障害
  8.5.1 大脳基底核が障害された場合の症候群
第9章 大 脳
 9.1 概 説
 9.2 発 達
 9.3 大脳の肉眼的な構造と諸領域
  9.3.1 脳回と脳溝
 9.4 大脳皮質の組織構造
  9.4.1 層構造
 9.5 白 質
  9.5.1 投射線維
  9.5.2 連合線維
  9.5.3 交連線維
 9.6 大脳皮質における機能局在
  9.6.1 検査法
  9.6.2 1次性皮質領域
  9.6.3 連合野
  9.6.4 前頭葉
  9.6.5 高次大脳皮質機能と皮質障害による大脳機能障害
第10章 脳膜および脳脊髄液・脳室系
 10.1 概 説
 10.2 脳と脊髄をおおう膜
  10.2.1 硬膜
  10.2.2 クモ膜
  10.2.3 軟膜
 10.3 脳脊髄液と脳室系
  10.3.1 脳室系の構造
  10.3.2 脳脊髄液の循環と吸収
  10.3.3 脳脊髄液循環の障害─水頭症
第11章 中枢神経系の血管支配と血管障害
 11.1 概 説
 11.2 脳の動脈系
  11.2.1 脳を灌流する血管の頭蓋外での走行
  11.2.2 前・中頭蓋窩での血管
  11.2.3 後頭蓋窩の動脈
  11.2.4 脳における側副路
 11.3 脳の静脈系
  11.3.1 脳表および脳深部の静脈
  11.3.2 硬膜静脈洞
 11.4 脊髄の血流支配
  11.4.1 動脈系における血管吻合網
  11.4.2 脊髄の静脈還流
 11.5 脳虚血
  11.5.1 動脈性低灌流
  11.5.2 脳梗塞時にみられる固有の症候群
  11.5.3 脳からの静脈還流障害
 11.6 頭蓋内出血
  11.6.1 脳内出血(非外傷性)
  11.6.2 クモ膜下出血
  11.6.3 硬膜下血腫と硬膜外血腫
 11.7 脊髄の血管障害
  11.7.1 動脈灌流障害
  11.7.2 脊髄の静脈還流障害
  11.7.3 脊髄出血と血腫
索 引