臨床現場のギモンを見開きスタイルで簡潔に完結!障害の原因から評価と効果的なアプローチが分かる実践書!
新刊原因から考える!運動器理学療法の“ギモン”80
内容
序文
主要目次
理学療法では障害の原因を特定し,原因に対して適切なアプローチを行うことが重要です.臨床上は障害を引き起こす要因が単一であることはまれであり,複数の要因が相互に関連しながら障害を引き起こしている場合がほとんどです.そのため経験の浅い理学療法士にとって障害の原因を特定する作業は容易ではありません.例えば股関節疾患によくみられるTrendelenburg徴候も,股関節外転筋力低下のみが原因となることはほとんどなく,股関節内転筋群の過緊張,体幹の協調性低下,足圧中心の外方化といったさまざまな要因がその原因となっていることが多いです.複数の要因の中から最適解を見つけ出し,適切なアプローチを選択することが,効果的な理学療法の実践には不可欠です.では複数の要因の中から障害の原因を特定するにはどうすればよいでしょうか?
障害の原因を特定するためには,原因を「分ける」作業が重要となります.「分ける」というのは,物事を細かく分析し,それぞれの要素を理解することに他なりません.「わかる」という言葉の語源は,実は「分ける」ことにあります.何かを理解する,つまり「わかる」というのは,物事を分解しどの部分がどのようにかかわっているのかを見極めることです.この「分ける」過程を経ることで,対象者が抱える障害の本質を見出すことができます.自動車のエンジンがかからない場合を想像してみてください.「エンジンがかからない」という問題をそのまま考えるのではなく,「ガソリンがない」,「スマートキーの電池が切れている」,「バッテリーが寿命を迎えた」,「ギアがパーキングに入っていない」など,原因を一つ一つ分けて考えることで,迅速に問題を解決することができます.「エンジンがかからない」といってエンジンスイッチを押すことを繰り返しても,エンジンがかかるようにはならないでしょう.
理学療法においても障害を引き起こす原因を細分化して考え,適切な理学療法評価に基づいて障害の原因を特定することができれば,より効果的なアプローチを見出すことができます.こういった過程を通じて,「わかる」という確かな手応えを得られる瞬間が,理学療法の面白さであり,やりがいでもあるのです.障害の原因を見極め,最適なアプローチを提供することこそが,理学療法士の仕事の醍醐味であり,患者の回復をサポートする力となります.
本書では「脊椎」,「肩関節」,「股関節」,「膝関節」,「足部・足関節」といった関節別に,理学療法士が臨床で遭遇することの多い80 の障害を取り上げ,それぞれの障害を引き起こす原因,原因を特定するための理学療法評価,原因に応じた理学療法について解説しました.できる限り難解な説明は割愛し,写真を多く使用して理解しやすい構成としました.紙面の都合上,主要な原因を取り上げて解説していますが,本書で挙げた原因がすべてではありません.本書で挙げられている原因にとどまらず,幅広い視点で障害の原因を追究する姿勢こそが理学療法士としての臨床推論能力を高めることにつながるでしょう.「分ける」ことで「わかる」,そして「わかる」ことであなたの理学療法はより充実したものになるでしょう.
最後に本書の発刊にあたり,多大な支援をいただきました文光堂編集企画部の奈須野剛弘氏,中村晴彦氏をはじめ編集企画部の皆様方,執筆いただきました先生方にこの場を借りて厚く御礼を申し上げます.
2025年5月
編集者代表 川端悠士
腰椎椎間板ヘルニア
ギモン 1 なぜ体幹屈曲時に腰痛や下肢痛が出現するのか?
ギモン 2 なぜ長時間の座位姿勢で腰痛が出現するのか?
腰部脊柱管狭窄症
ギモン 3 なぜ体幹伸展時に腰痛や下肢痛が出現するのか?
ギモン 4 なぜ術後に体幹可動域制限が出現するのか?
ギモン 5 なぜ術後に下肢の痛みやしびれが残存するのか?
脊椎圧迫骨折
ギモン 6 なぜ寝返りや起き上がりで腰痛が出現するのか?
ギモン 7 なぜ後弯姿勢になるのか?
成長期の脊椎疾患
ギモン 8 なぜ成長期の腰椎分離症はスポーツ活動を制限するのか?
ギモン 9 なぜ成長期で側弯姿勢がみられるのか?
その他の頸部・腰部障害(筋・関節由来の疼痛など)
ギモン10 なぜ首下がり症候群では首下がり姿勢が修正できないのか?
ギモン11 なぜストレートネックで頸部痛が出現するのか?
ギモン12 なぜ明らかな疾患がみられないのに体幹屈曲時痛と体幹伸展時痛が出現するのか?
ギモン13 なぜ妊産婦に腰痛・骨盤帯痛が出現するのか?
ギモン14 なぜ体幹を鍛えても腰痛が出現するのか?
ギモン15 なぜ腰痛が慢性化するのか?
ギモン16 なぜ腰痛で尿漏れが出現することがあるのか?
PART Ⅱ 肩関節
凍結肩(肩関節周囲炎)
ギモン17 なぜ安静時痛や夜間痛が出現するのか?
ギモン18 なぜ挙上時に肩痛が出現するのか?
ギモン19 なぜ結帯動作が改善しないのか?
ギモン20 なぜ可動域制限が改善しないのか?
ギモン21 なぜshrug signが出現するのか?
ギモン22 なぜ自主運動を行っても症状が改善しないのか?
肩腱板断裂
ギモン23 なぜ肩腱板断裂後の疼痛が軽減しないのか?
ギモン24 なぜ肩関節挙上初期が改善しないのか?
ギモン25 なぜ肩関節挙上後期が改善しないのか?
ギモン26 なぜ肩腱板修復術後の日常生活で疼痛が出現するのか?
ギモン27 なぜ術後の筋力強化練習中に痛みが出現するのか?
ギモン28 なぜ肩腱板修復術後に装具療法が必要なのか?
肩関節不安定症
ギモン29 なぜ肩関節可動域制限が出現するのか?
ギモン30 なぜ肩甲骨の位置異常が出現するのか?
ギモン31 なぜ固有感覚が低下しやすいのか?
ギモン32 なぜ競技動作時に恐怖感や不安感が出現するのか?
PART Ⅲ 股関節
大腿骨近位部骨折
ギモン33 なぜ荷重時に大腿部痛が出現するのか?
ギモン34 なぜ荷重時に膝関節痛が出現するのか?
ギモン35 なぜ股関節深屈曲時に鼡径部痛が出現するのか?
ギモン36 なぜ股関節外転筋力が改善しないのか?
ギモン37 なぜTrendelenburg徴候が改善しないのか?
変形性股関節症
ギモン38 なぜ股関節が痛くなったのか?
ギモン39 なぜ筋力トレーニングを続けても股関節の痛みが改善しないのか?
ギモン40 なぜ筋力トレーニングを続けても殿筋群や大腿四頭筋が萎縮するのか?
ギモン41 なぜTrendelenburg徴候が改善しないのか?
ギモン42 なぜ変形性股関節症が進行するのか?
人工股関節全置換術
ギモン43 なぜ歩行時に腰痛が出現するのか?
ギモン44 なぜ片側THA後に非術側股関節の荷重時痛が増強するのか?
ギモン45 なぜ自覚的脚長差を訴えるのか?
ギモン46 なぜ靴下着脱動作や爪切り動作が難しいのか?
ギモン47 なぜ歩行立脚終期に股関節伸展運動が出現しないのか?
ギモン48 なぜDuchenne徴候が改善しないのか?
PART Ⅳ 膝関節
変形性膝関節症
ギモン49 なぜ膝内側に疼痛が生じるのか?
ギモン50 なぜ変形が進行すると可動域制限が生じるのか?
ギモン51 膝OA症例に対する運動の負荷量や頻度をどうしたらよいのか?
ギモン52 なぜ歩行時に内反スラストが生じるのか?
ギモン53 なぜ膝関節と脊柱が関連するのか?
人工膝関節全置換術
ギモン54 なぜ術前の疼痛と術後急性痛が発生するのか?
ギモン55 なぜ疼痛が遷延化するのか?
ギモン56 なぜTKA後に屈曲可動域制限が生じるのか?
ギモン57 なぜ急性期の収縮抑制,回復期の筋力低下は生じるのか?
ギモン58 なぜ術前の歩容が術後にも残存するのか?
前十字靱帯再建術
ギモン59 なぜ膝前面に疼痛が生じるのか?
ギモン60 なぜ膝関節伸展可動域を獲得できないのか?
ギモン61 スポーツ復帰までのエクササイズをどのように行ったらよいのか?
ギモン62 なぜ動作時に膝外反(knee‒in)するのか?
ギモン63 なぜランニング時に蹴り出しがしづらくなるのか?
ギモン64 なぜジャンプの着地が不安定になるのか?
Part Ⅴ 足部・足関節
足関節外側靱帯損傷
ギモン65 なぜ急性期に生じた腫脹がなかなか引かないのか?
ギモン66 なぜ内がえし(回外)捻挫時に外側靱帯以外の場所が痛くなるのか?
ギモン67 なぜ背屈制限が改善しないのか?
ギモン68 なぜ足部や足趾の機能向上が必要なのか?
ギモン69 なぜ筋トレしてもgiving wayが治らないのか? 再受傷が起こりやすいのか?
足関節外傷性骨折
ギモン70 なぜ術創部周囲の痛みを訴えるのか?
ギモン71 なぜ足関節部の浮腫がなかなか減らないのか?
ギモン72 なぜOKCで得た背屈可動域が荷重位で保てないのか?
ギモン73 なぜカーフレイズで踵が高く上がらないのか?
ギモン74 なぜ歩行のterminal stanceで蹴り出し(足関節底屈)がみられず,toe‒outするのか?
足底腱膜炎
ギモン75 なぜ足底腱膜のストレッチを行っても痛みが改善しないのか?
ギモン76 なぜ朝の1歩目が痛いのか?
ギモン77 なぜ扁平足が改善しないのか?
ギモン78 なぜ下腿三頭筋の柔軟性が必要なのか?
ギモン79 なぜ踵骨の安定性が必要なのか?
ギモン80 なぜ歩行のinitial contactで踵接地を意識したほうがよいのか?
索 引