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SSI対策に関する膨大な情報をエビデンスと実践に基づきレクチャー!安全に手術を行うためのクリニカルスタンダード!!

Ortho Supportの

整形外科手術部位感染対策

  • 監修:一般社団法人Ortho Support
  • 著:山田浩司(中野島整形外科院長)
  • A5判・336頁・4色刷
  • ISBN 978-4-8306-2772-9
  • 2022年5月10日発行
定価 4,950 円 (本体 4,500円 + 税10%)
あり
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内容

序文

主要目次

院内感染の中で最も多い感染症である手術部位感染(SSI)は,整形外科領域でその数が最も多く,予期せぬ再入院の原因,さらには下肢切断・生死に関わる問題となることもある.本書では国内外の多くのガイドライン作成に携わり,同時に豊富な臨床実践を持つ著者が,具体的で時に一歩踏み込んだ内容なども含め,SSI対策のノウハウを解説している.巻末の「SSI予防のための最新テクノロジー」では具体的な商品・注意点を紹介するなど,日常臨床にすぐに役立つ内容が満載の1冊となっている.
はじめに

 それは,2019年の日本整形外科学会学術集会の2週間前だった.「先生すごいよ.先生の講演だけが満席になっている!」いつも親しくさせていただいている他大学の先生から突然メールが届いた.その年は,160以上の講演が事前予約可能であったにもかかわらず,私の講演だけが確かに「満席」と真っ赤な字で予約画面に表示されていた.そして,学会開始2週間前から学会2日目まで,私の講演だけが満員御礼であった(図1).
 最初に本書の執筆依頼をいただいたのは,その学会直後である.確かに,この信じられない出来事の反響はすごかった.いろいろな先生にお祝いのお言葉をいただき,もちろん共催企業の方々にも大変喜んでいただいた.これまでもさまざまな学会で講演させていただいたが,我々の主戦場である日本整形外科学会の学術総会ということもあり,特に強烈な印象として記憶に残る学会になった.これはもちろん私の実力というより,専門医継続に必要な“14–2”という特殊な単位を「この学会で取っておきたい」という皆様の思いが強く働いたためであろう.しかし,たとえそうだとしても名だたるご高名な先生方のご講演が目白押しの中,このようなご評価をいただけたことは整形外科医冥利につきる.
 本書は,これまで筆者が共著者の先生方と書き貯めてきたさまざまな原稿を1つにまとめたものである.国内外のさまざまなガイドラインの作成に関わらせていただき,膨大な資料を読み,さまざまな専門家と意見を交わし,そして実践していくことで培った膨大な経験が詰まった内容になっている.初稿を作成後,開業,起業,コロナ禍などさまざまなイベントを経たため,発刊までに予想以上に膨大な時間がかかってしまった.その間,エビデンスは徐々に蓄積され,一部すでに追記が必要な部分も出てきている.しかし,その影響は限定的である.整形外科の手術部位感染(surgical site infection:SSI)対策で必要となる根本的な要素はこの10年間何も変わっていない.実際,筆者もこの10年間,講演の基本骨格は何も変えていない.一貫して,ぶれることなく同様の推奨を言い続けてきた.
 特に重要なのが,SSI予防は多くの医療スタッフの協力なくして成し得ないということだ.SSIを効率的に予防するため,看護師,麻酔科,研修医やコメディカルのスタッフ皆様にお願いしなければならないことは山ほどある.しかし,そのリーダーとしてこれらスタッフを統率するのはあくまでも担当医である.そのため,執刀される先生ご自身が,誰よりもSSI対策について十分に理解し,しっかりとしたストラテジーをもって望む必要がある.
 本書は,筆者がこれまで培ってきたノウハウをもとに,感染症科医ではなく整形外科医目線で,整形外科医として特に知っておいていただきたいSSI対策の基本をまとめた.特に,ガイドラインで通常書けないような部分についても,ぐっと踏み込んだ内容になっている.エビデンスがないからやらない,記載しないではなく,たとえエビデンスがなくても,エビデンスが弱くてもやる必要がある,お伝えすべき対策であると筆者が考えていることについても,可能な限り言及した.ここは,各種ガイドラインの作成委員という立場ではなく,一臨床家として,ガイドラインという枠を超えて,限りある情報やエビデンスの中で,いま我々が実際の現場でどのように考え,そして行動していくべきか? という視点で執筆した提案集とお考えいただきたい.そのため,ところどころ様々なガイドラインと異なった提言や表現となっていることをご了承いただきたい.
 近年さまざまなガイドラインが乱立してきた.しかし,同様のリサーチクエスチョンに対して必ずしもすべてのガイドラインが同じ結論に至っていない.同じテーマに対して,真逆の推奨が行われている場合もある.これは,作成する団体ごとにそれぞれのガイドラインの作成方法が微妙に異なることと,そのガイドラインが対象とする集団が異なることなどに起因する.例えばCDCは米国の国内事情だけを考えればよい.しかし,WHOは先進国だけでなく低所得国の現状も考えながら判断しなければならない.たとえば,飲めないような水が出てくる水道水を使った手洗いと,いつでも飲める先進国の水道水で行う手洗いの結果は一緒だろうか? このような条件の違いが,ガイドラインごとに判断を少しずつ異なる結論に導いていく.
 この情報過多の状況下で,いったいどの情報を信じたらよいのだろう? 現場では大きな混乱が生じている.筆者は,今ここに最も大きな問題があると考えている.そして,2021年から一般社団法人Ortho Support(http://ortho-support.com/)を立ち上げ,ただ単にガイドラインを作るのではなく,その上でさらに現場に入り,皆様により的確・適切に情報をお届けするための活動を本格的に開始した.そして,自分自身の責任において,この活動を遂行していくためのチームビルディングを行うため開業を決意した.
 真っ先に優先して取り組むべきSSI対策は,それぞれの施設で異なる.しかし,本書に書かれている膨大な知識や経験を一朝一夕で獲得することは難しい.これまでさまざまな病院を訪問させていただき,手術の手伝いをさせていただいたが,実際に問題が起こっているにもかかわらず,それに気づかず完全にスルーされてしまっている場面をたびたび目撃する.実際には,本書のような膨大な知識と経験を持っている専門家がその現場に居合わせない限り,なかなか問題点には気が付けないのだろう.どうも,ここに根本的な問題がありそうだ.今は,お声をかけてくださった施設を訪問させていただき,手術室~病棟のラウンド,そして手術手伝いを通して術前~術中~術後に潜むさまざまな問題点を整理し改善案を提示させていただくという活動を行っている.そして,訪問日の夕方に院内スタッフを集め,その日の訪問の中で特に共有いただきたい問題を中心にテーラーメイドした講演を1時間程させていただいている.さまざまなディシジョンメーカーを1つの場所に集め同時に同じ情報を共有させていただけることは,その後の改変をよりスムーズなものとする.とてもご好評いただいている.
 残念ながら,SSI対策に関する情報は膨大である.本書でも書ききれない部分は多々ある.また,整形外科感染症が起これば,その治療も大変である.特に重要なのが抗菌薬の適正使用である.整形外科手術で必要なSSI対策と,整形外科医として身につけておくべき抗菌薬に関する最低限の知識を,Ortho Supportの定期セミナーで繰り返しご案内させていただいている.整形外科感染症診療を,その予防と治療の両面から全面的にサポートできるようなコンテンツの作成と組織作りに日々勤しんでいる.本書の最後にまとめた,さまざまな新しいテクノロジーなども駆使し,よりいっそうSSIの少ない,安心・安全な手術の実現,そして患者満足度向上につながるよう,微力ではあるが力の続く限り頑張っていきたいと考えている.本書,そしてOrtho Supportでの活動が少しでも皆様の臨床の一助になれば幸いである.
 最後に,本書の企画~発刊まで忍耐強くご尽力いただいた文光堂の中村晴彦氏,さまざまなガイドラインの作成でご指導いただきました松下和彦先生,竹末芳生先生,研修医時代からご指導いただきました田中栄先生,岡崎裕司先生,時村文秋先生,田尻康人先生,これまでさまざまな研究を支えていただきましたOSSI研究会の皆様と東京大学整形外科同窓の先生方に心より深く御礼申し上げます.

2022年 4月吉日
山田浩司

(図1 2019年日本整形外科学会学術総会にて)
Ⅰ 手術部位感染(SSI)とは
Ⅱ 術後発熱患者の診断
Ⅲ 検体採取のコツ
Ⅳ 整形外科でのSSIリスク
Ⅴ 術前のSSI対策
Ⅵ 術中のSSI対策−予防抗菌薬−
Ⅶ 術中のSSI対策−その他−
Ⅷ 術後のSSI対策
Ⅸ MSIS 2018のSSI対策
Ⅹ ケアバンドルの考え方
Ⅺ 普段から行うべきSSIへの取り組み
Ⅻ 整形外科SSI研究を行う上での注意点

付録1 整形外科医として知っておきたいSSI予防ガイドライン
付録2 各種ガイドラインの推奨グレードとエビデンスレベル,CDCの創分類
SSI予防のための最新テクノロジー

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